【第262回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第262回】柚月裕子『誓いの証言』
佐方は晶を見ながら言う。
「私は安藤さんのいる病院へ行き、よし子さんから安藤さんの病状を伺いました。そのときに、安藤さんは事故を起こす前から、睡眠導入剤を服用していたと聞いたんです」
法廷内の空気がざわつく。
佐方は話を続ける。
「私はその薬の名前を訊ねました。薬の名前はハルシオン。原告の体内から検出された、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤と同じ成分のものです」
法廷内に驚きの声があがる。佐方はそれに構わず話を続けた。
「原告は安藤さんが事故を起こしてから、幾度か安藤さんの家を訪れています。事故の処理や安藤さんの入院の手続きなどがあったのでしょう。そこで、原告は安藤さんが服用していた睡眠導入剤を見つけて持ち帰った。自分が眠れなくて飲もうと思ったのか、それとも、そのときすでに被告人を陥れる計画をしていたのか、それはわかりません。でも、そこで原告は薬を持ち帰り、今回の事件に使用した」
そこで乙部が佐方に問うた。
「今回の事件に使用した睡眠導入剤が安藤さんのものだと、どうしてわかるのですか」
佐方は答える。
「薬にはロット番号というものがふられています。その番号を追っていけば、いつ、どこの製薬会社で作られ、それがどこの病院や薬局に卸されたのかがわかります。原告の部屋を探せば、安藤さんが処方されたロット番号のハルシオンが出てくるはずです」
佐方は晶を見た。
晶は俯いたままだったが、目だけは佐方を向いていた。佐方を睨む目には、強い怒りが浮かんでいた。
(つづく)
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