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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.101

【第261回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第261回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方は乙部に一礼し、言葉を続ける。
「そこで、原告は被告人に復讐しようと考えた。復讐の形もいろいろある。憎い相手の命を奪うようなものから、投資詐欺などの金が絡むもの、相手の弱みを握って追い詰めるようなものまで様々あります。きっと原告は、どのような復讐ができるか、必死に考えたことでしょう。そして、ある復讐法を選んだ。それが、わが身を犠牲にして、被告人の社会的信用を失墜させ、家庭を壊すことです。自分の祖父は石職人という生きがいを奪われ、失意の底で息絶えた。結果、原家はなくなってしまった。それと同じ目に遭わせよう、そう考えた。その後、なにが起きたのかは、法廷にいるみなさんはご存じでしょう」
 佐方は法廷内を見渡した。法廷内は静まりかえり、みな、佐方の話に聞き入っている。
「原告は、被告人の世間的立場、そして家庭も失わせるために、自分の身を犠牲にしました。被告人からの誘いに乗り、肉体関係を持ち、強姦されたと偽って警察に被害届を出した。証拠を固めるために、被告人と関係を持ったあと病院にも行っている。そして、被告人の体液を病院で採取させ、さらには、知らないあいだに睡眠導入剤を酒に入れられたと主張したんです」
「異議あり!」
 こんどは大きな声で、岩谷が叫んだ。
「いまの発言は、原告が虚偽の証言をしていると取れるものです」
 乙部は岩谷の異議を認めた。佐方に言う。
「弁護人は発言に気を付けてください」
「失礼しました」
 佐方は乙部に詫びる。そしてそのすぐあとに、言葉を続けた。
「しかしながら、私はいまの自分の発言は正しいと思っています」
 乙部も岩谷も、怪訝な顔をする。
 佐方は晶を見つめる。
「私は、原告が自分で睡眠導入剤を入手し、自ら服用したと思われる情報を持っています」
 俯く晶の肩がぴくりと撥ねた。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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