天祢 涼『罪びとの手』(角川文庫)の巻末に収録された「解説」を特別公開!
天祢 涼『罪びとの手』文庫巻末解説
解説
川崎市内の廃ビルで発見された身元不明の男性の遺体。酔っぱらって、後頭部を壁に打ちつけた事故死ではないか、と簡単に済ませようとする検視官。しかし、川崎警察署の刑事第一課強行犯係の
引き取り手のない変死体は、
『このご遺体は自分の父親だ』と──。
御木本悠司の父、御木本
「殺したか」
本書、天祢涼氏の『罪びとの手』は、序盤から不穏な展開を見せてくる。
本作の読みどころはいくつかあるが、まずはミステリとしての読みやすさを挙げたい。物語が徐々に複雑になっていく中、本作では要所要所で事件の疑問点を再確認しながら進行するので、ミステリの初心者でも読みやすい構成になっている。滝沢はこの事件に関する疑問点をこんな具合に、スマホのメモアプリに入力していく。
①あの遺体は、本当に御木本幸大なのか?
②腕時計が、死亡推定日時の二日前、六日午後十一時三十七分でとまっていた理由は?
③なぜ悠司は「殺したか」と
この三つの疑問点(のちにもう一つ追加される)に、新情報が入るごとにメモが更新されていく構成になっているので、それまでの状況を再確認しながら読み進むことができる。この疑問点の振り返りは、最終章の解決編まで続くので、より分かりやすい。
もう一つの大きな読みどころは何と言っても、登場人物たちの人間ドラマの深さにある。
刑事・滝沢は、父も元刑事で、その優秀さは語り草になっていた。警察学校時代から父と比較されてきた滝沢は、どんな事件でも
御木本葬儀社は引退した父・幸大の跡を継いだ悠司が経営しているが、幸大の死をきっかけに、悠司の兄・
御木本葬儀社は「川崎市少女連続殺人事件」の三人目の被害者である
御木本昇一にはさらに大きな疑問があった。幸大の遺体を見たところ、どうしてもそれが父とは思えなかったのだ。確かに顔の造作は父なのだが、死体となって印象が変わったのだろうか? それだけではないように見える。
彼らに加え、御木本葬儀社の同業の葬儀社「
そしていよいよ、御木本幸大の葬儀の日。ここで
ところで、天祢氏が葬儀屋を舞台に描くミステリは今回が初めてではない。『葬式組曲』(文春文庫)という連作短編集がある。「
そんな葬儀屋ミステリに再び挑んだ作品となった『罪びとの手』もまた、天祢氏にとっての自信作のひとつではないか、と感じている。
天祢涼氏は実に多彩なミステリを世に出し続けているが、ミステリとしてのサプライズを常に意識しており、硬軟取り混ぜた作品群でも、必ずと言っていいほど、何らかのサプライズが用意されている。
私が特に評価するのが『希望が死んだ夜に』(文春文庫)に始まる生活安全課の刑事「
その一方で、比較的軽い気持ちで読めるシリーズもある。千葉の書店員たちが選んだ第18回酒飲み書店員大賞を受賞した『謎解き広報課』(幻冬舎文庫)や「境内ではお静かに」シリーズ(光文社文庫)がそれだ。
また近年では、神社の木の
昨今では作家本人がブログを持ったり、SNSで発信するのが当たり前となっている。発信の仕方や頻度は作家によってまちまちだが、とりわけ天祢涼氏はSNSの発信に熱心なことにも触れておきたい。自著の宣伝はもとより、サイン本が置いてある書店の情報を告知し、完売した店舗からの連絡があると即座に更新するほどのマメさが感じられる。そのためもあってか、書店員のファンも多いようだ。目利きの書店員をも
作品紹介
書 名: 罪びとの手
著 者: 天祢 涼
発売日:2024年08月23日
この遺体は誰なのか--火葬まで96時間、すべての真実を暴き出せ。
川崎区の廃ビルで発見された身許不明の中年男性の遺体。
事件性なしと判断されるが、刑事の滝沢圭は死亡推定日時と遺品の壊れた腕時計が示す日付とのズレに事件性を疑っていた。
そんな中、遺体を引き取りに来た葬儀屋・御木本悠司が、これは自分の父親だと申し出る。
奇妙な偶然と遺体を目にした悠司が呟いた「殺したか」という言葉に疑念を抱いた滝沢は、独自に捜査を始めるが――疑惑と伏線が絡み合う社会派ミステリー!
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