2020年2月14日(金)、竹宮ゆゆこさんの新刊『いいからしばらく黙ってろ!』が発売になりました。刊行にあたり、本作の熱量にビビッと反応してくださった皆さんの【刊行記念書評リレー】を配信いたします。
>>書評リレー①瀧井朝世さん「自分を変える第一歩」
>>書評リレー②池澤春菜さん「輝かしきお馬鹿たちへ」
好きを、ひたすら、⽣きていく。
評者:木﨑ゆりあ(女優)
私が初めて竹宮ゆゆこの小説と出会ったのは『砕け散るところを見せてあげる』だった。偶然本屋で見かけ、吸い込まれるように手が伸びたのを今でも覚えている。そう、彼女の良さの一つはタイトルだ。
『あしたはひとりにしてくれ』
『おまえのすべてが燃え上がる』
『あなたはここで、息ができるの?』
人間の心の底に眠っている“何か”がキュッと握られるようなタイトルだと思う。ひと目見ただけで表紙買いした人も少なくはないはず、私もその中の一人だ。
そして待望の最新作『いいからしばらく黙ってろ!』。
主人公である富士は一見、ごく普通の女の子。
子供の頃から染み付いた“あきらめ癖”と厄介な“しきり癖”を兼ね備え、カオスを捌くことにしか己の存在価値を見出せないでいる。富士は「トイレで偶然出会った⼀枚のチラシ」に引き寄せられるように夢を追い始める事となる。それはもう一人の“あの子”を探す冒険だった。
富士の周りにはいつもカオスがある。六つ上には双子の姉兄、六つ下には双子の弟妹、富士はその双子というカオスのど真ん中に生まれた、たった一人で。自分はなぜ一人で生まれてきたのか疑問だった。自分だけ何かが足りなくて、欠けてしまっているように思えた。本当はどこかにいるんじゃないのか。富士は「あの子」を探している。透明なもう一人の自分自身を……。
高崎の実家を出た富士はもうすぐ去らなければいけない東京で、一人ぼっちになってしまう。婚約を破棄され、住む所も就職先も、友達さえも失った富士はトイレで泣いていた。袴の裾が床についているがどうにもできない。もう立ち上がれない。まさに人生どん底。そんな時、偶然一枚のチラシと出会う。「バーバリアン・スキル」。ありがちなB5サイズの芝居のチラシだ。なぜだか遠くから呼ばれている気がした。行かなきゃ。心の中にある“何か”が動き出す。そして、その先に待ち構えていたのは難破船のような劇団だった。破壊的な状況の中で、富士のしきり癖が本領を発揮し、劇団と自分の人生をやり直すべく何度も困難に立ち向かう。
作中で舞台の幕が上がるシーンがある。そこで私はまんまとバーバリアン・スキル(通称バリスキ)に夢中になった。演劇という生モノだからこそ起こる独特な笑いや感動が、この作品には散りばめられている。それは演じるよりも、観に行くよりも、心が震えるあの瞬間を、もっと身近に感じることが出来る“正真正銘の演劇”だった。
竹宮ゆゆこの本に出てくるキャラクターは独特で印象的だ。
例えば、バリスキの主宰者、モツこと南野は自転車を両手で引きちぎる男。彼のツイートがこうだ。「変な雲。さては俺様を討伐しに来た天界軍か?」これだけでもとんでもない変人なのが分かる。そんなモツと肩を並べる異色なキャラクターがバリスキには沢山いるのだ。それこそカオス。だからか、読みながらとてもイメージが湧きやすい。これもまた劇団っぽいなと納得し、何度も吹き出してしまうほど。
偶然か、必然か、バリスキという渦の中に巻き込まれた富士はそこで何を見つけるのか。
あなたは自分の感性が揺さぶられる瞬間を経験してみたくはないだろうか?
私が竹宮ゆゆこの小説に出会った、あの時のように。
諦めるのも、気づかないフリをするのも、簡単だ。
でも、それが、自分が本当の自分に変わるチャンスなのかもしれない事に、何かに夢中になる、ただそれだけの人生が素晴らしい事に、この小説を読み終えたあなたは、きっと気づかされる。
▼竹宮ゆゆこ『いいからしばらく黙ってろ!』詳細(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321908000118/