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(評者:吉田伸子 / 書評家)
日本のお茶の間にミステリを定着させたのは、映像ではサスペンス系の二時間ドラマであり、活字では赤川ミステリだと私は思っている。サスペンス系の二時間ドラマには赤川さん原作の作品も多いので、日本のお茶の間にミステリを定着させたのは赤川さんだ、と言いきってしまってもいいとさえ思う。
それまでは、いわゆるマニアと呼ばれる人たちの間で盛り上がっていたジャンルであるミステリを、ぐんと身近にしたのが赤川さんなのだ。いや、それまでだって、怪人二十面相やホームズものはジュブナイルまで出ているし、人気があったはずだ、という声もあるだろう。けれど、〝一家で楽しめる娯楽としてのミステリ〟は赤川ミステリが嚆矢なのではないか。「三毛猫ホームズ」シリーズ、「三姉妹探偵団」シリーズ、「幽霊」シリーズetc.……。本書はそれらの系譜を継ぐ、赤川さんの新たなシリーズである、「三世代探偵団」シリーズの第二作。
三世代というのは、天才画家である祖母の天本幸代、スイーツ好きのおっとり主婦の母・文乃、私立高校に通う有里の三人のこと。一つ屋根の下に暮らす彼女たちが、ひょんなことから〝事件〟に巻き込まれ、三人がそれぞれの個性を発揮しつつ、その事件を解決していく、というのが大本のストーリー。前作では、文乃と有里が出ていた芝居の最中に殺された女優の謎を追った三人だが、今回は幸代が壁画を手掛けた病院で、往年の大女優・沢柳布子と有里が出会ったことから始まる。
高校の演劇部に入っている有里は、布子主演の映画の撮影現場を見学しにいくことになるのだが、映画に出ていたエキストラが妻を殺した容疑で逮捕されたり、今は引退も同然の、かつて布子と共演したこともある二枚目俳優・和田が、昔のよしみで布子に借金を申し込みにあらわれたり、布子の付き人である岐代が、布子が入院している病院の階段から落ちて亡くなったり、と波乱含み。天本家の三人も、あれよあれよと事件に巻き込まれていく。
前作同様、三世代の彼女たちを支えるのは、幸代の大ファンであり、彼女を「現代の上村松園」だと崇める刑事・村上。この村上と有里が事件を追う〝実働部隊〟とするならば、幸代は経済力と幅広い人脈で二人をサポートしつつ、事件を俯瞰して謎の本質に近づいていく。文乃はといえば、思いもかけないところで、事件の〝鍵〟を拾っていたり、と彼女たち三者三様に事件と関わっていく様も面白い。
同時に、今作では、往年の大女優である布子がメインゲストの回でもあるので、前作にも増して、読んでいて場面が映像として立ち上がってくる。彼女が主演する映画そのものも気になるし、そもそも本書が映像向きなのである。
赤川ミステリの特徴の一つに、メイン以外の登場人物が多いことがあるのだが、その誰もが単なる脇役の記号としてではなく、一人ひとりにちゃんと〝顔〟があるというのもいい。和田にはろくでなしの一人息子がいて、布子に申し込んだ借金は、その息子から金を無心されて止むを得ずであったこと。カルチャースクールのギター講師(これがまた酷い男なんです!)のいかにもな言動と所業とか。彼ら一人ひとりにちゃんと〝顔〟があるからこそ、登場人物が多くても、彼らの人間関係が微妙に入り組んでいても、読者が読んでいて迷子になることはない。そういった細部への心配りがあるからこそ、赤川さんのミステリは、老若男女に広く読まれているのだと思う。
そのことは、角川文庫の赤川作品の総部数が1億冊を突破していることからもわかる。1億冊ですよ、1億冊! 大事なことなので2回書きました。この「三世代探偵団」、本当にドラマ向きでもあるので、どこかの局で連続ものでも、二時間ものでも、どちらでもいいので映像化して欲しい。ちなみに、私のキャスティングは、幸代は草笛光子、文乃は斉藤由貴、有里は清原果耶、です。
▼赤川次郎『三世代探偵団 枯れた花のワルツ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000256/