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特集

【対談】有栖川有栖『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』×逸木裕『少女は夜を綴らない』

撮影:内海 裕之  構成:タカザワ ケンジ 

新作で心霊探偵の活躍を描き、ミステリと怪談の融合に挑んだ有栖川有栖さんと、横溝正史ミステリ大賞受賞後の第二長編を発表した逸木裕さん。
選考委員と受賞者の関係でもあるお二人に、それぞれの新作についてお話しいただきました。

早くから作家を目指して

——お二人は横溝正史ミステリ大賞の選考委員と受賞作家というご関係ですね

有栖川: お会いするのは授賞式以来ですね。第二作の刊行、おめでとうございます。

逸木: ありがとうございます。みなさんのお力で何とか出せました。

有栖川: 早く二作目を読みたかったんですよ。第一作の『虹を待つ彼女』のときも、選考会に臨むにあたって「受賞作はこれしかない」くらいの気持ちでした。作品のクオリティが高いのはもちろんですけど、この方は本当に達者だ、と思いました。達者というのは器用だということではなく、エンターテインメントをいろんなかたちで書けるんじゃないか、ということです。面白い話を書くということを超えて、ハートというか、スピリットを感じました。

逸木: もったいないお言葉です。私は有栖川先生の本を中学生くらいのときからずっと読んでいました。最初に読んだのは『46番目の密室』で、一九九五年に文庫になった頃に読ませていただきました。当時、ちょうど有栖川先生たち新本格ミステリの方々が書かれた初期の傑作が次々と文庫になっていて、夢中になって読みました。

有栖川: 二十二年前ですね。おいくつくらいでした?

逸木: 十四、五歳ですね。

有栖川: その頃読んだ本は影響が残るものです。悪いことしたかな(笑)。たしか、逸木さんは作家になろうと思ったのが早かったんですよね。

逸木: 中学生の頃から思っていまして、新人賞にも応募していました。

有栖川: そこ、似ているんです。私もその頃にはもう作家になろうと思っていました。

逸木: 最初に書いた小説は原稿用紙二百枚くらいのミステリでした。

有栖川: 私も十五歳のときに長編を書いたんですよ。三百六十枚くらい。江戸川乱歩賞に送ったんですけど、七人が死ぬんです。それもぜんぶ密室とか、凝った死に方ばかり。それだけ聞くとすごいと思うでしょう? 誰か死なないと話がもたないんですよ。「困ったな、もう一人殺そう」と(笑)。

逸木: 今日は有栖川先生にお礼を言いたくて、この本を持ってきたんです(『有栖の乱読』)。有栖川先生がオススメの百冊を選んでいるブックガイドで、読書の幅が広がるきっかけになりました。

有栖川: この百冊にハズレはないですよ。私と同世代だったら大半は知っているかもしれないけれど、世代がずれると新鮮でしょう。

逸木: まさにそうでした。笹沢左保先生がハードな本格を書かれていることを初めて知ったり、探して読むのが楽しかったです。

有栖川: 逸木さんの読書経験に影響を与えられたというのは嬉しいですね。

負の感情によって結びつく二人

——今回、逸木さんの第二作となる『少女は夜を綴らない』が刊行されました。

逸木: 投稿時代は落ちても精神的にダメージを受けるだけですけど、出版を前提で書くのは初めてだったので、中途半端なものを書くわけにはいかないとプレッシャーを感じました。

有栖川: 二作目って特別なんですよね。私も早くから作家になりたいと思っていたので、アイディアのストックはそれなりにあった。でも、どれも使えませんでした。これは人前には出せないな、というものばかりで。「俺、大丈夫かなあ」と思いましたよ、作家として。

逸木: ご自分でボツにされたのですね。

有栖川: アレンジして再利用したものもありますけどね。この作品は元々構想があったのですか?

逸木: ベースになっているのは、受賞翌年の横溝賞に出そうと考えていたものです。結局、原型とはかけ離れたものになりましたが。

有栖川: やっぱりこの人はたいしたもんだなあ、と思いながら、引き込まれて読みました。受賞作の『虹を待つ彼女』は人工知能を扱っていて、ミステリなんだけどある種の恋愛小説になっていた。こちらは中学生を主人公に、痛みをともなう青春小説になっている。共通のテイストはありますが、いろいろなものが出てくる作者だな、という感触がよかったですね。ところで、この小説、どこから着想したかがわからなかった。

逸木: 主人公の女の子と男の子がいまして、その二人が結びついていく話を書きたいなと思ったんです。その結びつきの力になるのが殺人計画。負の感情によってしか結びつけない二人を書こうと思ったのが最初です。

有栖川: 主人公の理子は加害恐怖という強迫神経症の一種で、人に危害を加えたいという衝動に駆られることがある。実行はしないんだけど、やったらどうなるかを夜の日記に綴っていく。この「夜の日記」が最初にあったのかなとも思ったんですが。

逸木: 夜の日記は第一稿を書いている途中で思いつきました。二回目に頭から直したときに書き込んでいったんです。

有栖川: 男の子のお父さんを殺そうと計画するわけですが、そこに不測の事態が起きて……というストーリーですね。ミステリを読む喜びがありました。しかも面白いだけじゃなくて、登場人物たちが感じる痛み、苦しみがヒリヒリ伝わってきました。辛いところもある物語だけれども、最後にはある種の救いがある。でも、よくある救いとも少し違っている。そこに作者の強いメッセージを感じました。

ミステリと怪談のカードを混ぜる

——有栖川さんの連作小説集『濱地健三郎の(くしび)なる事件簿』も刊行されます。怪談小説集の『幻坂』に登場した心霊探偵が主人公ですね。

有栖川: こういうものを書くとは自分でも思っていませんでした(笑)。そもそも、私はミステリ一本でいこうと思っていて、怪談を書いたこと自体が想定外。それが依頼されて、だんだんと書いてみたいな、と。最初に鉄道怪談の『赤い月、廃駅の上に』という短編集を書き、次が大阪、それも、天王寺七坂という狭いエリアを舞台に書いた『幻坂』でした。次は何にします?と編集者から言われたときに、『幻坂』に出てくる心霊探偵はもう出ないんですか?と読者から聞かれたことを思い出しまして。濱地が出る「源聖寺坂」という短編を法月綸太郎さんが褒めてくれたので、それなら良いのだろうと(笑)

逸木: すごく独特な手触りで、面白かったです。本格ミステリ的なフォーマットかと思うと、いきなり幽霊が出てくる。こういうバランスの本は読んだことがないなと思いました。

有栖川: ミステリを書いていると、こぼれ落ちるものがあるんですよ。小説には幽霊が結構普通に出てきますよね、物語だから。でも、ミステリは徹底的に超自然的なものを否定します。そもそもミステリのルーツは怪奇幻想系の物語で、怪異を分析して解いたらどうなるか、というところから来ています。根っこは同じなんですが、いまは対極にある。その対極にあるミステリと怪談の要素、両方を使って書いたら、違うものが書けるんじゃないかと。そこからですね。

逸木: 有栖川先生の小説を拝読していると、バラエティの豊かさに驚かされます。たとえば、孤島に行って謎解きをする『乱鴉の島』のようなガチガチのパズラーがあるかと思えば、大阪の風俗小説のような色合いを持つ『鍵の掛かった男』といった作品もあります。本格ミステリを書き続けながら、そのなかでいろいろなバリエーションの物語をお書きになっている、そのバランスはどう考えていらっしゃるのでしょうか。

有栖川: 『鍵の掛かった男』は、ハードボイルド……というか私立探偵小説の筆法を意識して書きました。現代ミステリには警察小説やサスペンス小説などいろんなサブジャンルがあって、そこにも本格ミステリに使える仕掛けや設定がある。一九二〇年代、三〇年代の作家がいいトリックを使ってしまっているから現代の作家はたいへんですね、と言われたり、自分でもそう思ったりすることがありますけど、逆に出そろっていますから、カードみたいにいろいろ好きなものを使えるとも言えます。今回はミステリの隣にある怪談のテーブルからカードを持ってきて、混ぜ合わせて使っている感じですね。

逸木: なるほど。『濱地健三郎の霊なる事件簿』は怪談的なものもありつつ、本格ミステリ的な決着を見せるものもありますよね。いろいろな楽しみ方ができると思いながら、読ませていただきました。

有栖川: そう読んでいただけると嬉しいです。ところで、逸木さんはこれからどんなものを書いていこうと考えているのですか。

逸木: たくさんあるんですけど、どれがものになるのかまだわからないです。過去に書いた作品のなかで、もう少し掘り下げて書きたい人物がいたりもしますので、次作はそういう話になるかもしれません。

有栖川: キャラクターを書くのがお上手ですから、そこからストーリーができるかもしれませんね。逸木さんにはミステリをどんどん書いてほしいと思いますけど、もしかするとその枠には収まらないかもしれない。書きたいものを存分に書いてください。大きな作家になる方だろうなあ、と思っています。

逸木: ありがとうございます。ご期待に応えられるよう精進したいと思います。


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