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「不死の人間」は一種究極のファンタジーである。読者をその世界に誘導する方法は多々あるが、本作冒頭の「お伽話風の静かで柔らかな語り」はとても効果的だ。読者は優しい視点を引き継ぎ物語に入っていく。
ある漁村に流れ着く、何日経っても瑞々しく光り腐らない魚。そこへ異国の赤子が流れ着き、魚の恩恵を受けて成長する。人間らしさを保つ心とは裏腹に、彼女は不思議な力を得ていた。
この子孫が主人公の御先(みさき)である。齢百数十年だが、見た目は非の打ち所なき美少女。深い怪我もたちどころに治り、人の傷病も治すことができるが、新陳代謝もなく飲食も不要。生きる意味は色褪せてきている。
そんな彼女がある決心から生き方を変え、小学生や女子高生と出会う。これまで接してこなかった普通の人々に関わっていくうち、両者に変化が……。
不死というアイデンティティーを乗り越えていく、御先の思春期物語に見えてくる。老成した振る舞いの中に神秘性と初々しさが共存し、応援してしまう主人公。脇役達も魅力的で続編が読みたくなる、大人のお伽噺だ。
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