【カドブンレビュー】
永遠の命がもたらすものは幸せか、それとも絶望か。
本作は人魚の肉を食べて不死の力を得たという八百比丘尼の伝説をもとにした6編からなる連作短編集だ。序章ともいうべき第1話では、いつの時代か分からない昔、海から流れつき、不死の力を得た女性のエピソードが描かれる。そして神話的な雰囲気を持つ第1話から一転、第2話以降は現代の東京に舞台を移す。
八百比丘尼の血を引いた一族の中でも特に強い力を持った御先は、自分のみならず他者をも治癒する不思議な力を持ち、時の権力者たちを影で支える役目を担っていた。付き人であり同じ里出身でありながら力を持たない雅親。同じ力を持ちながらはぐれものとして生きる青年、四。彼らと関わりながら、老いることも死ぬことも許されず漂うように生きる御先。
感情表現に乏しく諦観すら感じさせる御先だが、第4話の「ひとだま」では、偶然知り合った少女を不遇な環境から救い、続く第5話の「かみさま」では自棄になった女子高生に自ら関わろうとする。しかし普通の人間と関わることは御先に自らの孤独をますます自覚させることになる。
そして最終話の「躑躅」。付き人として献身的に御先に尽くす雅親の視点から語られる物語は、不死の残酷さをより際立たせ、誰も幸せにすることのない永遠の命を穏やかに否定する。叶うことのない想いを抱えた雅親。拒絶を繰り返すしかない御先。果たして二人の関係に変化は訪れるのか。
自分だけが老いることなく生き続けること、それは周囲の人と時の流れを共有できないということだ。大切な人をただ繰り返し見送るしかない切なさや悲しみはやがて絶望となり、自ら求めることを止めてしまうのだろう。同じように老い衰えていくことで得られる共感や慈しみの心。そこにこそ愛情が生まれるのだとしたら……。読後、自分の隣でアンチエイジングに余念のない妻の姿を愛おしく感じた。
書誌情報はこちら≫千早茜『夜に啼く鳥は』
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