KADOKAWA Group
menu
menu

レビュー

サンキュータツオさんに聞く! アニメ「歌舞伎町シャーロック」の魅力「肩の凝らないミステリー」

 2019年10月からはじまったテレビアニメのなかで、ひときわ異彩を放っているオリジナル作品が『歌舞伎町シャーロック』だ。
 マンガやライトノベル原作の作品が多いアニメシーンにあってこの先の展開がまるでわからないオリジナル作品は、視聴者にとって新鮮さを提供する一方で、精度の高い「おもしろさ」を保証するセールス実績がないリスクを抱える。作り手もヒットするかわからない状態ではじめるのだから、制作者もファンもドキドキだ。
 しかし、制作は数々の名作を世に送り出してきたProduction I.G(『攻殻機動隊』シリーズ、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズ、『ハイキュー!!』シリーズ、『風が強く吹いている』などを制作)、シリーズ構成に岸本卓、キャラクターデザインに矢萩利幸という、名作『ジョーカー・ゲーム』のアニメ化で成功を収めたタッグで挑むというので放送開始前から期待は高まった! 
 主人公は歌舞伎町で探偵をしている、その名もシャーロック・ホームズ。舞台は、新宿を東口と西口で分断した世界。ホームズがいるのは「新宿區歌舞伎町イーストサイド」である。どちらかというとはぐれモノたちが集うこのイーストサイドに、ホームズ行きつけのバーがあり、そこには個性豊かな探偵たちが集っている。作品中では「探偵長屋」と表現されていて、依頼があると彼らはその長屋から外の世界へ飛び出していく。
 作品全体にはハードボイルドな世界観が漂っていて、オープニングテーマであるEGO-WRAPPIN'の「CAPTURE」が映える。2002年に放送されたドラマ『私立探偵 濱マイク』の匂いもさせつつ、それでいて作品を見やすくしているのはコメディタッチな空気感だ。ふむ、カッコいいではないか!


 主人公のシャーロック・ホームズは寄席と落語が好きな探偵で、なぜか推理の大事な部分で落語風にカミシモ(上下)をきる(左右を向いて人物を演じ分け会話風に話を展開する)。現実には存在しない落語家のトレーディングカードを収集していたり、事務所に落語家の名前の入った提灯を飾っているほどだ。どうやら昔は落語家になりたかったらしいが入門を断られて探偵稼業をしているらしい。しかも刺身に生クリームをつけて食べるような変わった味覚の持ち主。まずはそんな設定から面食らった人も多かったかもしれないが、私はアニメ的外連味として受け取って楽しんでいる。そんな変なシャーロックを認めるわけにはいかないぞ、と思っていると、コナン・ドイルの原作「赤毛組合」のトリックがパロディとして使用されていたりと、シャーロキアンでも楽しめるかもしれない。


 物語は、そんなシャーロックの元に、ウエストサイドから解剖医のワトソンが来るところからはじまる。ワトソンは、かつて「切り裂きジャック」事件の被害者を解剖していた経験を持ち、自分の周りで起きる不可解な出来事を解決してほしいと依頼にきたのだ。ひとまずのところ年内の放送は、この切り裂きジャック事件を主軸として、探偵長屋の面々が遭遇する事件を描いた群像劇として展開する。
 事件の現場に足を運び、容疑者の考えにシンクロしていくシャーロックの捜査手法と、ひとつひとつのミステリーの展開が飽きさせず、それぞれ一話完結していて見やすい。各探偵たちのバックボーンも掘り下げてくれているので、今後ますます彼らが協力して事件を解決していくのが楽しみだ。


 たとえば、4話では歌舞伎町のリアル銭湯「八天の湯」(ハッテン場、ではない)に行くシャーロックとワトソン、モリアーティ(モリアーティは、頭脳明晰な高校生で、シャーロック並みの推理力を有する仲間という設定)。そこでなぜかイヌ・サル・キジの被り物をしたままサウナに入ってきた男たち。彼らは「モモタローズ」というバンドのメンバーで、これからライブがあるのに肝心のボーカル桃太郎がいないという。桃太郎を探し出すと、不可解な点がチラホラでてくる。そう、桃太郎は殺されてしまっているのだ。果たしてその真犯人は……。という展開なのだが、謎解きは常に予想を2回転くらいさせて意外な真相に着地させているので、見ごたえがある。肩の凝らないミステリーという意味では一級品かもしれない。
 そうこうしているうちに、「切り裂きジャック」の事件も徐々に進展していく。ちょっと皆さん、早く見てくださいよ!



アニメ情報

放送日
TBS:毎週金曜日25:55~
MBS:毎週金曜日25:55~
BS-TBS:毎週土曜日25:00~
AT-X:毎週火曜日20:00~ ※リピート放送あり
※dアニメストア、AbemaTVほかにて配信中

キャスト
シャーロック・ホームズ:小西克幸
ジョン・H・ワトソン:中村悠一
ジェームズ・モリアーティ:山下誠一郎
ハドソン夫人:諏訪部順一

公式サイト http://pipecat-kabukicho.jp/
©歌舞伎町シャーロック製作委員会


関連書籍

新着コンテンツ

もっとみる

NEWS

もっとみる

PICK UP

  • 辻村深月『この夏の星を見る』特設サイト
  • 早見和真『八月の母』特設サイト
  • 小野不由美「営繕かるかや怪異譚」シリーズ特設サイト
  • 宮部みゆき「三島屋変調百物語」シリーズ特設サイト
  • 上田竜也『この声が届くまで』特設サイト
  • 「果てしなきスカーレット」特設サイト

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年7月号

6月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年8月号

7月4日 発売

怪と幽

最新号
Vol.019

4月28日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

この声が届くまで

上田竜也

2

営繕かるかや怪異譚 その肆

著者 小野不由美

3

かみさまキツネとサラリーマン

著者 ヤシン

4

谷根千ミステリ散歩 密室の中に猫がいる

著者 東川篤哉

5

意外と知らない鳥の生活

著者 piro piro piccolo

6

龍と謙信

著者 武川佑

2025年6月30日 - 2025年7月6日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

レビューランキング

TOP