世界一知名度の高い探偵が、アーサー・コナン・ドイルが生んだシャーロック・ホームズであることは言うまでもないし、最も映像化される機会が多い探偵もまたホームズで間違いない。ただし、ピーター・カッシングやジェレミー・ブレットが演じていた頃は原作通りの時代背景をクラシカルに再現するのが普通だったが、イギリスのBBCで2010年から放映された『SHERLOCK シャーロック』が現代のイギリスを舞台に選び、アメリカのCBSで2012年から放映された『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』で現代のニューヨークが舞台になったあたりから、ホームズの活躍の場を現代に移行する試みが一気に増えてきた。
日本を舞台にホームズ譚を翻案する場合も、2018年にHuluで配信された『ミス・シャーロック』、2019年にフジテレビ系の「月9」枠で放映された『シャーロック』のように、現代の日本で物語が繰り広げられるドラマが目立っているけれども(「ホームズ」ではなく「シャーロック」の名前をタイトルに掲げているあたりも近年の傾向を反映している)、MBS系で現在放映中の連続アニメ『歌舞伎町シャーロック』に至っては現代どころか、パラレルワールドと思われる新宿區イーストサイドの歌舞伎町を舞台としている。
先述の『ミス・シャーロック』や『シャーロック』といった和製ドラマが登場人物の名前を日本風に翻案しているのに対し、『歌舞伎町シャーロック』の場合、シャーロック・ホームズやジョン・H・ワトソンをはじめ殆どの登場人物が原典のままの名前で登場するので、日本が舞台という設定とのギャップに最初はやや当惑させられた。シャーロックとワトソン(事件に巻き込まれ、イーストサイドに逃げ込んできた)の出会いから物語が始まるのは定石通りだが、このシャーロックは「探偵長屋」に属しており、ハドソン夫人(オネエの男性という設定)の仲介で依頼を引き受け、他の探偵たちと競争で解決することになっている。事件解決の際、「推理落語」で謎解きをするのがユニークだ。
コナン・ドイルの原典と対比するなら、第2話は「赤毛連盟」とほぼ同じ展開であり、第3話は「ノーウッドの建築業者」を踏まえている。「あの女」ことアイリーン・アドラーの初登場回である第7話はもちろん「ボヘミア王のスキャンダル」が元ネタだし、続く第8話は「恐喝王ミルヴァートン」と「ボール箱」。第7話から登場するセバスチャン・モラン新宿區長の名は、「空き家の冒険」に登場したホームズの宿敵モリアーティ教授の片腕とも言うべき悪党に由来しているし、同じ第7話にはシャーロックの兄マイクロフト・ホームズも、モランの第一秘書官として登場。第6話などで活躍する子供たち「歌舞伎町遊撃隊」は、もちろんベイカー街遊撃隊がモデルだ。
名前からして気になるのは、遊撃隊の隊長であるジェームズ・モリアーティ少年の存在だろう。彼の正体と抱え込んでいた秘密にも驚くが、より衝撃的なのは第1話から言及されていた切り裂きジャック事件の真相。1クール目の終盤で暴かれるジャックの正体を当てるのは、なかなか難しかったのではないだろうか(その時点までに確かに登場していた人物である、とだけは記しておく)。この1クール目の終盤は、怒濤の連続どんでん返しがまさに圧巻。2クール目の展開は私もまだ知らないけれども、愛すべき探偵たちの物語がどんな方向に進んでゆくのか、大いに気になるところである。
※文中のコナン・ドイル作品のタイトルは、石田文子および駒月雅子訳の角川文庫版に従った。
アニメ情報
放送日
TBS:毎週金曜日25:55~
MBS:毎週金曜日25:55~
BS-TBS:毎週土曜日25:00~
AT-X:毎週火曜日20:00~ ※リピート放送あり
※dアニメストア、AbemaTVほかにて配信中
スタッフ
監督:吉村愛
シリーズ構成:岸本卓
キャラクターデザイン・総作画監督:矢萩利幸
音響監督:長崎行男
音楽:伊賀拓郎
アニメーション制作:Production I.G
キャスト
シャーロック・ホームズ:小西克幸
ジョン・H・ワトソン:中村悠一
ジェームズ・モリアーティ:山下誠一郎
ハドソン夫人:諏訪部順一
公式サイト http://pipecat-kabukicho.jp/
©歌舞伎町シャーロック製作委員会