【カドブンレビュー】
カドブンを訪れて下さっている皆さん、こんにちは。
今回は、推理小説の源流に位置し、ミステリーというジャンルを世に定着させ、様々な国でなんども映像化され、著者のアーサー・コナン・ドイル卿が亡くなっても他の作家によって新作が書かれ続けているという、まさにエポックメイキング的な不朽の名作、エンタメ小説の古典、シャーロック・ホームズ・シリーズの中の一冊、『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』となります!
いまさら説明は必要ないでしょうが、主人公はずば抜けた観察眼や推理力を持ち、芸術や学問に秀で、コカインやヘロインを嗜むこともある(当時は規制されていなかったのです)、ちょっとワイルドなシャーロック・ホームズ。
そして相方は元軍人で医師、ホームズの友人であり、伝記作家のワトスン君。残念ながらホームズほど聡明ではない彼は「ワトスン役」という言葉があるほど、まさに探偵助手の代名詞。
今作品には、一晩で三兄妹のうち妹が死亡、兄二人の精神が崩壊するという怪事件「悪魔の足」や、イギリスが第一世界大戦に突入する直前、ドイツのスパイとの対決を描いた「最後の挨拶」など七つの短編が収録されており、それらの難事件にホームズとワトスンの名コンビが挑戦するというわけです。
もちろんこの短編集、娯楽作品として読んでも面白いのはいうまでもありませんが、百年前の様子をうかがい知ることの出来るタイムカプセル的な意味合いも持っています。
作品の舞台はおよそ百年前の十九世紀末から二十世紀初頭、発明や近代化の時代。
ロンドンは産業革命で人口が爆発的に増え、スモッグで真っ黒の霧に覆われていました。地下鉄と馬車が共存し、電報が日常的に使われ、電話、自動車、電球が普及していったのもこの頃。
そしてヨーロッパでは国家間の対立と緊張が高まり、1914年の第一次世界大戦勃発がまさに目前、という時代でもあり、戦争の影を大きく感じさせられる作品も収録されています。ホームズとその兄マイクロフトが国家機密である潜水艦の設計書をドイツに盗み出した人物を追う「ブルース・パーティントン設計書」はまさにスパイ小説さながら。
そして1917年に発表された「最後の挨拶」で、戦争と国家の行く末についてホームズが語るその言葉は、まさにその時代に生きた人しか書けないものでしょう。
百年前のロンドンはどんな世界だったんだろうか。
我々が生きているこの時代となにが違うのだろうか。
そして百年経っても変わらないものとはなんだろうか?
過去の名著を読む楽しみは物語だけでなく、価値観や道徳観の変遷や普遍性を知ることにあるのかも知れません。
是非ページを開いて百年前のロンドンを訪れてみて下さい!
ちなみに本書に収録されている『最後の挨拶』は時系列的には、ホームズの最後の事件となります。
ホームズの短編集はどこから読んでも楽しめるようになっていますが、もし時系列順に、あるいは刊行順に楽しみたいという方は、下記のリストを参照下さい。
緋色の研究 https://www.kadokawa.co.jp/product/200911000537/
四つの署名 https://www.kadokawa.co.jp/product/201202000135/
シャーロック・ホームズの冒険 https://www.kadokawa.co.jp/product/200911000535/
シャーロック・ホームズの回想 https://www.kadokawa.co.jp/product/200911000536/
バスカヴィル家の犬 https://www.kadokawa.co.jp/product/201202000136/
シャーロック・ホームズの帰還 https://www.kadokawa.co.jp/product/321602000048/
恐怖の谷 http://www.shinchosha.co.jp/book/213408/(新潮社)
シャーロック・ホームズ最後の挨拶 https://www.kadokawa.co.jp/product/321801000151/
シャーロック・ホームズの事件簿 http://www.shinchosha.co.jp/book/213404/(新潮社)
※イケウチ多忙のため今回の朗読はお休みとさせていただきます。
楽しみにしてくれていた方には申し訳ありません。
次回をお楽しみに!