親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!
2015年の『君の膵臓をたべたい』以来多彩な青春小説を生み出し続け、今なお若い読者の熱い支持を得ている住野よるさん。5月22日に発売日を迎える最新作『告白撃』は、今やすっかり大人になった読者にも、常識を持ちつつ時にかなぐり捨てる登場人物たちが刺さる青春“再始動”小説です!
「告白され」て、「失恋させ」るとはどういうことなのか? 前代未聞の〈告白大作戦〉をまずは試し読みでお楽しみください!
『告白撃』試し読み(2/4)
『学生時代を思い出すと、なんか夢の匂いを感じるんだよね』
「そんなロマンチックな匂いの商品あるのかよ」
『ないよ。鼻でじゃなくて脳で直接感じるようなさ。ナイスぅ』
敵を全て倒し戦闘は終了した。俺は通信先の千鶴に「トイレ休憩」と告げ、コントローラーを置きヘッドフォンを外す。
小さいながら設備を整えたゲーミングルームを出て、そういえばネクタイも外してなかったことに気がついた。帰宅が約束の時間ギリギリだったからだ。素早く部屋着に着替え改めてトイレに向かう。用を足してからキッチンに立ち寄り、缶ビールを持って戦場に舞い戻った。
ヘッドフォンをつけて呼びかけると、すぐに反応があった。コントローラーを操作し対戦相手とのマッチングを待つ。敵味方揃ったら、もはや現実よりもずいぶん美しいフィールドで撃ち合いの始まりだ。
右が左が、建物の陰がどうだ、持ってる武器がどうだ、ヘッドフォンとマイクで連絡を取り合い、戦闘をより優位に進めるため両手を動かす。操作ミスに文句を言うし、強く言われたら若干イラっとする。相手だってそうだろうからおあいこだ。安心して遊べる。
こうやって趣味のゲームを思い切り満喫できるところに、そろって出張が多い夫婦唯一の利点があると、今も接待中だろう奥さんのいない家で思ったりする。
『果凛、酒飲んでんのか』
空からパラシュートでの降下中に、喉の音で気づかれた。
「仕事終わってリラックスタイムだからな」
『戦闘中にリラックスなんて迂闊な話だ』
フィールドに着地する。すぐさま索敵と武器やアイテムの回収を迅速に行う。
二ゲームプレイした後、今度は千鶴からちょっとタイムのアナウンスが入った。俺はヘッドフォンをつけたままビールを飲み、スマホの画面で有料登録している新聞社のサイトを開く。
千鶴は戦闘への復帰を、缶のプルトップを開ける音と喉の音で知らせた。訊いてもないのに『レモンサワー』と装備品の説明付きで。
そして再びコントローラーを持ち、まさに戦いが始まろうかというその瞬間に、もう一つの知らせをもらった。
『私、婚約してさ』
「報告のタイミング今!? それはおめでとう」
驚いた。でも、反射的に祝福の言葉を届けられた。
『ありがとう』
「そうか結婚か」
千鶴が結婚するのか。
事実を嚙み締め、報告が急でよかったかもしれないと思った。考えこめば浮かんでしまうある懸念を、まずは混ぜることなく友人を祝えた。どうしても、今は通信上にいない別の友人の顔が浮かぶ。
大きな感情の起伏は死を招くらしい。映画やなんかでよく聞く。俺は画面を注視しつつ努めて平静を装い会話を試みた。
「一回目だっけ?」
『一回目だよ! それくらい覚えといて』
「冗談だよ。相手は?」
『職場の一個下』
「俺が知らないってことはだいぶスピード婚?」
『いや、彼氏できたくらいで報告されてもきりないだろうから話さなかっただけで、一年くらい付き合ってた』
「俺も訊かなかったしな」
友達としての会話とは別に、互いの戦況もしっかり報告していく。
「結婚式やるの?」
『やる予定。ただまだ婚約って形だから、入籍も結婚式も含め、一年後くらいかな』
「ふーん、とにかくおめでとう。相手の事情もあるだろうから、結婚式は呼べそうなら呼んでくれ」
何げなく聞こえるよう、言葉を調節することに意識の大部分を割いてしまい、集中力を保てなかった。そんな状態で生き残れるわけもなく、些細な操作ミスを重ねさらっと殺される。
『もちろん呼ぶよ』
次こそはゲームに集中するはずだった。なのに。
『でも、それについてちょっと相談したいことがあるんだ』
千鶴から嫌な予感しかしない語り出しがあった。絶対に、予算の組み方などの情報を得たいわけではないと分かってる。友達始めて長いからな。
現実でも銃口を向けられたような、ありえないイメージがわいた。
『響貴のこと』
二つの世界で命を狙われて生き残れるほど人間離れしていない。俺はゲーム内でまたさっさと殺されてしまい、コントローラーを置いた。落ち着くために一口ビールを挟み、逡巡しているのではなく口がふさがっているのだと喉の音を大き目に鳴らす。
「え、響貴のこと?」
希望を込めてすっとぼけた。戦う兵士というより、赤外線センサーを避けて身をくねらせるスパイの方が近い。
『うん、あのさ、響貴って、これ頭おかしいと思われるかもしれないと分かってて、話進まないから言うよ? あいつ』
声色だけでも見え見えのためらいが、一瞬の間を生む。
『私のことが好きなんだ』
「本人に訊いたわけ?」
『いいや。でも察するよそれくらい、長いもん』
俺も一緒に共有している約十一年のことか、それとも想いに気がついてからのことか。
『間違ってる?』
あっちもコントローラーはとっくに置いたらしい。冗談やからかいならともかく、友達の真剣さに噓はつきたくない。俺は観念した。
「……本人からはっきり聞いたわけじゃない。でも、そうだと思う」
『だよね』
息を吐く大きな音が聞こえる。溜息じゃない。そんな失礼なやつじゃない。
「それで相談って?」
『響貴に花嫁姿を見せたくないんだ』
千鶴の答えを聞いてすぐ、二つの気持ちが湧いた。
お互い子どもじゃないんだからって気持ちと、俺もその光景を見たくないって気持ちだ。正直に言えば、どちらかというと後者の方が強かった。もう三十の大人なんだから、なんて自分に言い聞かせるだけの言葉で、自覚など本当はどこにもない。折り合いつけたり見て見ぬ振りしたり、常日頃から好きでやってるわけじゃない。
「単純に呼ばなきゃいい、ってわけにもいかないか」
『無理でしょ。響貴を呼ばなかったら友達誰も呼べないよ。だけど、新郎側の考えと私の立場もあって、二人っきりとか、家族だけでの式は出来ない』
「あいつが断るかもしれないけどな」
『じゃあ私のことを好きだと分かってる友達に、よかったら他の人と幸せになる姿を見に来ませんかって?』
「そんな」
言いかけて、黙ってしまう。少しの沈黙の後、あちらから先に『ごめん』と短く真面目な謝罪がくる。お互い少しずつなら大人になったのかもしれない。
「どうするんだよ」
すぐに思いつくのは、響貴の仕事が忙しい時期を狙い日帰りでは来られないような遠方での式にするとか。いや響貴は大切な友達の為ならと、いつだってどこだって来るだろうな。自分の気持ちなんて隠しきって。それに日付や場所の調整だけで済むなら、千鶴も俺に相談する必要がない。
言葉よりも意思の伝わる深呼吸音の後に、千鶴は答えた。
『響貴から告白されようと思ってる』
受動態の文章では聞いたことがない宣言だ。意味と目的はなんとなく分かったのに、「どういうことだそれ」とつい訊いてしまった。身についた癖みたいなもんだった。
『あいつだけを呼ばない、あいつが来なくてもいい、明確な理由を作る。気持ちを互いの間でオープンに出来てれば、結婚式に呼ばない理由になる。だから告白されて、断りたい。もちろんあいつがここまで長く黙ってたのを簡単に言う気はしないから、もしよかったら、果凛に協力してほしい』
「なんだその最悪な作戦、もっと丸く収まる方法あるだろ」
『最悪じゃなきゃ駄目だ』
簡単に覚悟とか決心とか迫真とか、そんなかっこつけた言葉を友達との間であまり使いたくない。でも声が、そんな風だった。
『もし万が一、この作戦が他の誰かに知られた時に、響貴が式に来ない理由を知られた時に、全員が私を責めるような、百パーセントこっちが悪い作戦じゃなきゃ駄目だ。だって友達が表に出さない感情を無理やり引き出して砕こうとしてる私が、全部悪いんだから』
見えないところで散々に悩み抜いたんだろう。震える声から伝わってくる。
「響貴に訊いてしまうってパターンは?」
『そんなことしても、あいつが認めるわけないよ』
「だろうな」
冗談っぽくシニカルに処理する響貴が目に浮かぶ。そんで千鶴は子どもみたいに、いーって悔しがる。
「真っ向から向き合うなら、あいつに言わせるしかないと思ってる」
結婚式に呼ばない方法なんて、他にいくらでもありそうなものだ。それでも千鶴の考えた方法に強く反対できなかったのは、二人の間にある感情のすれ違いを放置してきた俺に、自分が悪いと宣言する千鶴を否定する権利なんてないと思えたからだ。
何より俺もまた二人の決着を望んでいた。
この年まで続いた片想いは、相手の結婚を機に自然と消えるものじゃないだろう。これからもひた隠しにし続ける友達を見るのは、はっきり苦しい。願わくはきちんと落としどころを見つけ、どんな形であれ響貴には前に踏み出してもらいたい。全員で目をつぶり心を隠しながら付き合い続ける未来なんて、欲しくなかった。
それでも協力をしていいものか悩む俺に、次の言葉がとどめになる。
『決めたんだ』
「何を」
『私があいつの頭を撃ち抜かなきゃいけない』
似たような夜ならいくらでもあったはずだ。それにもかかわらず何故かすぐ脳内から特定の映像や音が引き出されてきた。
「あの時の話か」
『何が?』
「違うのかよ! いい、俺だって偶然思い出しただけ」
きっと皆がそれぞれに持っている記憶の欠片を集めて、ようやくあの日々になるのだろう。千鶴の発言が偶然でもいい。未来で千鶴や響貴と気兼ねなくあの頃の欠片を集められる仲でありたい俺は、決めた。
「分かった。まず近々話し合いしよう」
『ありがとう本当に』
「ただどうしていいか分かんねえから啖呵切りながら泣くな」
途端に通信を切られた。
かけ直しても反応はなく、後からスマホの方に『作戦会議の日程の確認よろしくお願いします』とラインメッセージが来ていた。子どもかよ。弱い涙腺をいじられたくないと知ってていじる俺もまた。
作品紹介
告白撃
著者 住野 よる
発売日:2024年05月22日
親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!
三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイディアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!
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