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試し読み

30代の〈告白大作戦〉、検討会議開始【住野よる最新作『告白撃』試し読み(3/4)】

親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!

2015年の『君の膵臓をたべたい』以来多彩な青春小説を生み出し続け、今なお若い読者の熱い支持を得ている住野よるさん。5月22日に発売日を迎える最新作『告白撃』は、今やすっかり大人になった読者にも、常識を持ちつつ時にかなぐり捨てる登場人物たちが刺さる青春“再始動”小説です!
「告白され」て、「失恋させ」るとはどういうことなのか? 前代未聞の〈告白大作戦〉をまずは試し読みでお楽しみください!

『告白撃』試し読み(3/4)

 大学の授業である作家の名言を教わった。
 人は人に影響を与えることもできず、また、人から影響を受けることもできない、らしい。三十という年になってふと思い出し、噓だと思う。
 出会ってから俺達は、互いに影響を与え合った。軽いところでゲームという趣味は親や兄弟からの影響じゃなく、響貴から誘われて始めた。そういう意味の名言ではないと作家の研究者に言われたところで、知ったことか。
 今日の待ち合わせ場所も指定したのは千鶴だったけど、他の喫茶チェーンより比較的空いてるからと、就活時代に通いだし仲間内で流行らせたのは俺だ。
 千鶴の協力要請から一週間後の土曜日、俺は普段あまり利用しない駅のホームに降り立ち指定された店舗へと赴いた。
 いつからか煙草臭くなくなった入り口で店員を捕まえ、名前を伝える。大学生のバイトだろう背の低い女の子は、奥に位置する貸し会議室へ丁寧に案内してくれた。
 軽くノックして、返事は待たず扉を開ける。まず千鶴の頭頂部が目に入った。手前の席に座り、なにやら一人でクリーム色の壁に喋りかけている。振り向いた彼女と手の動きのみの挨拶を済ませ、俺は奥の空いた席に座り鞄を隣に置いた。それからテーブル上で開かれたメニューを黙読する。
「そうだね、知らないのが当たり前だって心構えでいると楽だよ。倉屋のアップデート得意なところは信じてるから。ミスもあるけど」
 電話先の相手をからかうように千鶴は笑う。誰かを励ましているとは分かった。
 千鶴の前には既に飲み物が置かれていた。俺は静かに立ち上がり部屋を出る。ちょうど前を通った若い男性店員にコーヒーフロートを頼んだ。
 戻ると千鶴は、耳につけていたワイヤレスイヤホンを専用のケースにしまうところだった。そこで初めて、彼女のスーツ姿を見たのが二十代前半以来だと気がつく。
「千鶴が革ジャン着てない!」
 半分いじり、半分本当の驚きで指摘したら、千鶴はこっちに向かって歯を見せた。
「得意先との定例会終わってから来るって言ったじゃん」
「生涯革ジャン主義って言ってたのに、イメージ崩れるぞ」
「魂に着ておる」
「前に会った時は普通に着てただろ。二重だったのかあれ」
「そっちだって半年ぶりに見たら、髭やっぱり違和感あるよ」
 一年くらい前から貯え始めたチャームポイントを、俺は自分で触る。
「おかげで最近、髭の営業って覚えられやすくなった」
「なんか偉そうで嫌」
「ただの悪口はやめろ」
 半年会っていなくても、大学時代からノリは変わらない。それほど気の置けない仲なのは本当だとして、単に月一以上オンラインでのゲーム会をやっているのも理由の一つだ。響貴が参加していることもあれば、俺がいないこともあるし、男同士って組み合わせもある。
「え、髭そんなに変?」
「気にしてる! 別に変じゃないけど、見た目ごついから、髭も合わさると威圧感を受ける人もいるかもね。ただキャラクターでいじられてるならいいんじゃない。モテなくてもいいでしょ奥さんいるんだし」
 友達からのきっぱりした意見をもらっていたらドアがノックされ、コーヒーフロートが運ばれてきた。男性店員がテーブルの上にスプーンとストロー、紙ナプキンも置いてくれる。そこにすぐ「私の前で可愛さアピールされても」と不本意な意見が交ざる。事実無根であることを店員にも直接伝えたかったが、おっさんに絡まれたと思われてはたまらないので退室を待った。
「知ってるだろ甘党なんだよ。千鶴はほんとガラナばっかりだな」
「だってこことシュラスコの店くらいだよ、これに出会うの」
「響貴としょっちゅう言い合いしてたの思い出した」
「そう、あいつ、甘い飲み薬だって言うんだ」
 千鶴は眉尻を下げてガラナをストローでちゅうっと吸う。感情の変化が分かりやすい顔をしてる。俺もアイスクリームを一口食べた。
「千鶴は最近響貴と会ったのか? 俺は二ヶ月くらい前に軽く飲み行ったけど」
「二週間前に響貴の家泊まった」
 あんまりな答えに、驚く気も起きなかった。
「お前なあ」
「いや、言いたいことは分かる」
 あの悩んでいる声は一体なんだったのか。心配した俺は今日なんの話をしに来てるのか。流石にタイミングってあるだろ。そういう意味を全部込めた顔をしてやったら、彼女は激しく首を横に振った。
「分かるんだけど、一回言い訳させて。あと先に言っとくけどなんもないから」
「当たり前だろ、婚約報告からの浮気報告なんかされてたまるか。何だ一緒にオールナイトイベントでも行ってたのかよ」
 二人は大学時代にバンドを組んでもいた。その頃からよく一緒に行ったライブの話を聞いている。俺は楽器を弾かないし曲を気に入ってもライブハウスに通うほどじゃなかった。二人とフェスに行く経験くらいなら何度か。
「いや、あの、あいつんちの近くで同僚と飲んで、べろっべろで終電逃して、つい連絡したら泊まっていいって言うから。家、広いし」
「お前マジ、お前さ」
 連絡する千鶴も受け入れる響貴も容易に想像は出来るだけに。
「その口で何が、あいつ私のこと好きだけどどうすればいいかな、なんだよ」
 俺からすれば当然の指摘に、千鶴の顔はすぐ真っ赤になった。それから小学生みたいに手元のストロー袋を伸びたまま投げつけ、空気抵抗を受けた袋はテーブルの上に情けなく着地する。ただここがちょっとだけ大人になったところなんだろう、すぐ「すんません」と謝ってきた。
「でもでもさ」
「一回多い」
「お母さんじゃないんだから」
「好きでいてくれる男の家に酔って押し掛けた話を母親にするなよ」
「うるせえ! いやその時になんか言われたらさ、全て解決だったのにさ、響貴のやつ、ちゃんと水と使い捨ての歯ブラシ用意してリビングのソファで寝かせてくれやがって」
「それも当たり前だろ、相手が泥酔してるタイミングで大事な話するような奴なら、俺から縁切ってる」
「あと朝ごはんもあった」
「とりあえず作戦に必要ならすぐ泊まりにはいけるってことだな」
 意味ない気もするけど、スマホをポケットから取りだしメモアプリに記しておく。二台あるうちもちろんプライベート用の方に。万が一会社で今回の動きがばれたりしたら正気を疑われる。
親友から親友へ失恋前提の告白をさせようとしてるって、大人のやることじゃない。

★つづき(4/4)はこちら

作品紹介

告白撃
著者 住野 よる
発売日:2024年05月22日

親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!
三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイディアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322311000546/
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