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試し読み

「千鶴は、響貴の気持ちに勘づきながら泳がせてたわけだろ?」【住野よる最新作『告白撃』試し読み(4/4)(最終回)】

親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!

2015年の『君の膵臓をたべたい』以来多彩な青春小説を生み出し続け、今なお若い読者の熱い支持を得ている住野よるさん。5月22日に発売日を迎える最新作『告白撃』は、今やすっかり大人になった読者にも、常識を持ちつつ時にかなぐり捨てる登場人物たちが刺さる青春“再始動”小説です!
「告白され」て、「失恋させ」るとはどういうことなのか? 前代未聞の〈告白大作戦〉をまずは試し読みでお楽しみください!

『告白撃』試し読み(4/4)

「そういえば俺もあれから考えてみて、一つ根本的な疑問があるんだけど」
「あに?」
 ストローをくわえたタイミングであっても、千鶴はちゃんと相槌をうった。
「告白って、大人がするもん?」
 そしてガラナを飲んでる途中で目をむく。
「え!? じゃあどうやって付き合うの!?」
 教育番組に出てくるわざとらしいキャラクターみたいだ。
「知っての通り、こっちはもう奥さんと十年以上の付き合いだから実体験では分からないけどさ、大人になって周りから告白って単語聞いた覚えない気がする」
「うそ! みんなどうしてんの!?」
 千鶴には悪い意味だけじゃなく、俺よりいっそう子どもっぽいところがある。感情が高ぶってすぐ泣くとか、言い合いの途中で語彙力を放棄するとか。俺はもう、告白なんていう若い子達の恋愛にくっつきそうな名詞を言うのにすら、若干照れてしまう。
「ちなみに千鶴は、その婚約相手とどうしたわけ?」
「え、相手からちゃんと好きだって告白されて付き合って、この前ちょっといいレストランで食事してる時に指輪と一緒にプロポーズされて、だよ」
「うわ、めちゃくちゃ千鶴っぽいわー」
「馬鹿にした感じで言うな!」
「お前への多大な理解がある」
 ふざけた言い方をしつつ、本心からの拍手をまだ見ぬ千鶴の婚約者に贈った。パートナーが持つ恋愛観への解像度を高める努力は大切だ。
「千鶴のとこはともかく、普通は、いや普通って言葉はあんまり使いたくないんだけど」
「多様性への配慮があってよい」
「そんな偉いもんじゃないけど。まあ、多数決したらさ、多分ある程度の関係になってから付き合おうってなるくらいで、特に何もないのに好きだっていう告白をわざわざしてる奴は、少ないんじゃないかな」
「響貴とはある程度の関係だと思うけどなあ」
「そうじゃなくて、こう」
 どう説明したものか自分の両手を何げなく組んで考えていたら、勝手に何かを勘違いした千鶴が「するか!」と怒声をあげた。対話や食事といったコミュニケーションの話をしようとしてたんだけど、まあいずれはそうなるわけだからいい。
「いきなりそこまでじゃなくても、お互いはっきりは言わずに、恋愛を意識して二人で会うのが自然になっていくみたいな感じが多い気する」
「なんで奥さんとずっと一緒なのにそんなの知ってるんだよ」
「相手が確定してる奴には惚気やすいんだよみんな」
 千鶴はぽんっとわざとらしく手を打つ。大学時代恋人が出来る度に、新しい彼のどこが好きなのか俺に報告してた千鶴は心当たりがあるんだろう。
「みんな告白しないのか。予想外の事実だ」
「千鶴はどうやって思いついたわけ? その告白、大作戦」
 からかうつもりで言ってて自分で笑ってしまった。
「こっちは真剣なんだよ?」
「分かるけど。嫌な言い方すればさ、千鶴は、響貴の気持ちに勘づきながら泳がせてたわけだろ? それを何で急に」
「それは、なるようになると思ってて、私が悪い」
 言ってから千鶴は俺が反応する前に「悪者だ」と付け加えた。
「思いついたのは、もちろん婚約がきっかけだけど、色んな要素があるよ」
 千鶴のジャケットの袖についたボタンが、テーブルとぶつかって軽い音をたてる。
「一つじゃない。響貴に恋人がもう数年いないっぽいってのもあるし、あとは例えば、そうだな、
私とあいつが大学でバンドやってた時の話になっていい? 卒業ライブ。確か果凛も来てくれてたと思うから、覚えてるかもしれない」
 実はその時くっつきかけたというような話でもあるのかと思い、黙って話を聞いていたら、千鶴はまるで関係のなさそうな質問を飛ばしてきた。
「Honey Moon Song って曲、分かる?」

(気になる続きは、ぜひ本書でお楽しみください。)

作品紹介



告白撃
著者 住野 よる
発売日:2024年05月22日

親友に告白されたい。そして失恋させたい。大人げない告白大作戦の開幕!
三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイディアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322311000546/
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『告白撃』応援店限定ステッカーについてはこちら

住野よる『告白撃』特設サイト



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