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連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.17

【連載コラム「告白します」】二礼 樹「暴かれるプラスマイナス」

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2025年7月号」に掲載された内容を転載したものです)

二礼 樹「暴かれるプラスマイナス」
【連載コラム「告白します」】

「男同士で飲みに行きましょう」「女子会に顔を出してくださいね」
 直接の面識がない人たちからメールやダイレクトメッセージを通してそのように言われる度に、どう答えれば誠実なのだろうかと頭を悩ませる。一旦「だましているようで悪いので先に説明させてほしいのですが……」と切りだしておいて、己の正体を明かすことに抵抗を覚え、笑って誤魔化し、これで嫌われるなら仕方がないと腹をくくるばかりだ。
 インターネット上で最も邪悪な行いであるエゴ・サーチをすると、二礼樹の名前の後にはまず「性別」というワードがサジェストされる。公開されている写真を見ても、紳士服を着て、色の付いた化粧をしている風である。髪は長く、フラットな体型で、身長は高くない。だから皆、混乱しているのだと思う。
 告白すると、僕はノンバイナリーだ。
 幸いなことに、いままで打ち明けた誰も、僕に対して無神経な追及をしたり迷惑がった態度を取ったりすることはなかった。中には「そうとは知らず決めつけた扱いを……」と歩み寄ってくれる人さえいて、恐縮を通り越して申し訳なくなるほどである。
 一方で、自分には向けられていなくても、同じ立場の人たちが「訳のわからないわがままだ」「生物として欠陥のある失敗作」「自意識過剰の噓き」と心ない言葉を浴びせられている場面を数多く見てきた。じ伏せるための圧倒的な暴力も気の利いた論破のフレーズも持ち合わせていなかった。理不尽に立ち向かい彼らの味方をすることができなかった。
 それが情けなくて、いまこうして文章に残している。
 明確に区分けができないと不安で不快になるという心理も理解できなくはない。僕も自分がスタンダードなどちらかであればよかったのに、と苦しく感じている。ジャッジされることが煩わしく、迎合もできず、たとえば、高い所から落ちれば賽子さいころを振り直せるだろうかと考えたこともあった。今生ではどこにも属することができなくて残念だ。
 僕はシステムエンジニアをしていて、割り切れない半端なものを非合理的だとも許容し難いとも思う。異常値ははじくか、四捨五入して真か偽に振り分けてしまえばいい。あるいは、初めから無視されるべく発生した誤差に過ぎない存在なのだろうか。だけど、この話は算数の問題ではない。文字という不確かで曖昧なものをつかみ、矛盾に満ちた文学世界を愛する人たちには、きっと伝わるはずだと信じている。
 単純明快な解の代わりに、僕はここに連帯を示そう。

プロフィール

二礼 樹(にれ・いつき)
1997年、宮城県生まれ。法政大学卒業。プログラミング学習塾講師を経て、自動車・金融系企業にシステムエンジニアとして勤務。2024年に『リストランテ・ヴァンピーリ』(「悪徳を喰らう」改題)で第11回新潮ミステリー大賞を受賞し、作家デビュー。

書籍紹介



書名:リストランテ・ヴァンピーリ(新潮社)
著者:二礼 樹
発売日:2025/03/19

「高級料理店」で食材として冷凍されていた男が生き返り、瞬間、おれは喰われた? 生き延びるためには、ある吸血鬼を捜し出し、その血を飲まなくてはならない。暗い過去を抱える解体師、双子のかたわれを追う美少年、かつて王女だった殺し屋。熱い血と言葉が逬る、はずれ者たちの賛歌。

掲載号紹介



書名:小説 野性時代 第259号 2025年7月号
編:小説野性時代編集部
発売日:2025年06月25日
商品形態:電子専売

「鬼龍光一」シリーズ最新作、開幕! 今野敏「百鬼」。「旅×食」――人生の滋味を掬い取った近藤史恵の読切に横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作発表も!

【新連載】
今野敏――百鬼
都内で起こる謎の連続傷害事件の犯人は、鬼――?
「鬼龍光一」シリーズ最新作、開幕!

【読切】
近藤史恵――パンケーキとイクラ
リトアニア・ヴィリニュスへの撮影旅行。
十年付き合った彼女と別れた青年が出会ったものとは?

【最終回】
増田俊也――七帝柔道記3 友たれ永く友たれ
ついに迎えた決勝戦。九大の怪物・甲斐を止められるか――? 大人気シリーズ三作目、堂々の完結!

永井紗耶子――青青といく
弥兵衛は末弟子として青陵の墓を建てる。墓地に現れたのは――。〈自由自在〉の奇才・海保青陵の軌跡が次代へとつながる、晴れやかな幕引き。

梶よう子――雷電
教えてくれ。相撲は誰のものか――。江戸時代の相撲を描く〈歴史×スポーツ〉小説、白熱の最終回!

赤川次郎――三世代探偵団 愛と哀しみへの逃走
恋人を失くした宝石強盗犯は逃走を続け、外務大臣には再び暗殺者が迫る。複雑に絡み合う事件が行き着いた先とは――。堂々の最終回!

【発表】
第45回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞

【連載】
阿津川辰海――デッドマンズ・チェア 
安部若菜――描いた未来に君はいない 
伊岡瞬――獲物
恩田陸――産土ヘイズ
神永学――怪盗探偵山猫 楽園の蛇
砂原浩太朗――踊る狐
蝉谷めぐ実――見えるか保己一
馳星周――海霧(ジリ)
藤岡陽子――青のナースシューズ
群ようこ――暮らしはつづく
森沢明夫――ハレーション
米澤穂信(著者)/星野源(写真)――石の刃

【コラム】
二礼樹「暴かれるプラスマイナス」

【書評】
Book Review 物語は。 吉田大助
阿部智里『皇后の碧』

【新人賞】
第17回 小説 野性時代 新人賞 応募要項
第46回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 応募要項

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