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連載

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」 vol.18

【連載コラム「告白します」】柾木政宗「きっかけはファンレター」

「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。

(本記事は「小説 野性時代 2025年8月号」に掲載された内容を転載したものです)

柾木政宗「きっかけはファンレター」
【連載コラム「告白します」】

 作家を名乗ることにためらいがあります。
小説はおろか文章すら書かない人生でした。作文は苦手でしたし、大学も卒論を書かず卒業、SNSも気恥ずかしさで続かず、勤め先では日報や議事録がうまく書けずよく𠮟られました。
 ただ一時期、少しだけ文章を書いていたことがあります。
 私はアイドルが好きで、以前は休日を全てヲタ活に捧げていました。今はそうもいきませんが、それでも時間を見つけてはあちこち行っています。一昨日は日向坂46を見てきました。
 人が身に付けているアイドルグッズにも敏感です。さっきはAKB 48のTシャツを着ている人とすれ違いました。
 そんな私ですが、メフィスト賞で2017年にデビューする前、あるグループを応援していた頃、ライブやイベント後に毎回ブログを書いていました。それをファンレターとして、推しに読んでもらっていたのです。
 これが思いの外好評で(ただのお世辞だろという指摘は野暮です!)、推し以外のメンバーも読んでくれたり、ブログきっかけで声をかけてくれるヲタクもいたりしました。
 ちなみにそのブログは削除済みです。読み返したら、愉快なやつだと思われたい欲が全開で恥ずかしかったのです。
 ――だとしたら『告白します』より『私の黒歴史』では?
 確かにそうですが、黒歴史と呼ぶには楽し過ぎる日々でした。30代に突入しても推しTに着替えて汗だくになってコールをし、ライブが終われば撮りたてのチェキを片手にみんなでご飯を食べに行き、その楽しさを語るには文字数が全く足りません。自分の人生に青春なんて1ミリもありませんでしたが、青春ってこんな感じかもと思えました。
 当時の仲間とは徐々に疎遠になってしまいましたが、私は変わらずヲタクです。最近はもっぱら一人です。スマホにはチケットアプリ、バッグには握手券が入っています。
 話を戻します。ブログを褒められた私は、身の程もわきまえず小説を書き始めました。
 ささやかな験担ぎとして、応募原稿は毎回アイドルイベントの帰りに、コンビニで印刷していました。そして数年後、なぜかデビューさせていただきました。
 さすがアイドルパワーと言いたいところですが、運が良かっただけです。強いて言えば想いを詰め込んだ文章を書き続けていたので、応募作にも異様な熱気だけはあったのかもしれません。まあその熱気で書かれた某デビュー作こそ、内容的に『私の黒歴史』かもしれませんが……!
 でも今の私にはどうだっていいのです、そんなこと。
 2025年5月31日。
 私は今、幕張メッセのホール7前のベンチにいます。何とかこれを書き終えました。
 今日はAKB 48の握手会です。握手券も忘れず持ってきました。
 まだ時間に余裕がありますが、大行列になりそうなので早めに並ぶことにします。
それでは行ってきます。

プロフィール

柾木政宗(まさき・まさむね)
1981年、埼玉県生まれ。2017年『NO推理、NO探偵?』で第53回メフィスト賞を受賞しデビュー。『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』『まず、再起動。 ITサポート・蜜石莉名の謎解きファイル』『まだ出会っていないあなたへ』など著書多数。

書籍紹介



書名:食刻(講談社)
著者:柾木政宗
発売日:2025年03月19日

早乙女真琴は新進気鋭のアーティスト。画壇に多大な影響力を持つ美術評論家・影塚孝志の薫陶を受け、銅版画家として頭角を現した。影塚の援助のもと早乙女は高みを目指すが、代償もあり……。注目作家の新境地!

掲載号紹介



書名:小説 野性時代 第260号 2025年8月号
編:小説野性時代編集部
発売日:2025年07月25日
商品形態:電子専売

印象的なラストシーンに注目! 寺地はるな「町は今日も」、馳星周「海霧」が最終回。今野敏「百鬼」は好評第2回。多彩な執筆陣が夏本番を彩る最新8月号!

\好 評/
【連載第2回】
今野敏――百鬼
関節技で被害者を病院送りにする「鬼」。
七つの署を震撼させる、連続傷害事件の共通点とは――?

【最終回】
寺地はるな――町は今日も
彼らと心の底からわかりあうことなど、できない気がする。それでも――。
「今日」を優しく照らし出す、ある町の物語、最終回。

馳星周――海霧(ジリ)
歩け、大樹、歩け。ジリのもとへ、霧子のもとへ……。
その春、浦河の夜明けの沖に――海霧が立つ。

【連載】
安壇美緒――イオラのことを誰も知らない
阿津川辰海――デッドマンズ・チェア 
安部若菜――描いた未来に君はいない 
伊岡瞬――獲物
伊吹有喜――銀の神話
恩田陸――産土ヘイズ
神永学――怪盗探偵山猫 楽園の蛇
蝉谷めぐ実――見えるか保己一
藤岡陽子――青のナースシューズ
群ようこ――暮らしはつづく
森沢明夫――ハレーション
米澤穂信(著者)/星野源(写真)――石の刃

【コラム】
柾木政宗「きっかけはファンレター」

【書評】
Book Review 物語は。 吉田大助
愛野史香『天使と歌う』

【新人賞】
第17回 小説 野性時代 新人賞 応募要項
第46回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞 応募要項

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000317/
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