浅野皓生「告白の告白」【連載コラム「告白します」】
「小説 野性時代」連載コラム「告白します」

最も旬で刺激的な物語が詰まった月刊文芸誌「小説 野性時代」より、コラム「告白します」を特別公開!
執筆者の個性が光る「告白」をお楽しみください。
(本記事は「小説 野性時代 2023年7月号」に掲載された内容を転載したものです)
浅野皓生「告白の告白」
【連載コラム「告白します」】
僕の名前は「皓生」だ。「皓」という字を説明する際、いつも「告白を逆にした字です」と説明する。その後「だから、告白したことも、されたこともありません」と続けるのが自己紹介の十八番で、哀れみからか、大抵の人は笑ってくれる。
だが、このコラム「告白します」を書こうとして、思い出すことがあった。浅野皓生、実は告白されたことがあったということを、今日は告白したい。
小学二年生の一学期のことである。ある日の放課後、クラスメイトのXさんが声を掛けてきた。一緒に砂場に来てくれないかと言う。Xさんは陽気でおしゃべりだったので、僕も話したことはあったが、特に親しいわけでもなかった。一体、何の用だろう――内心訝しみながら、Xさんの後を追った。
砂場に着くや否やだった。Xさんは僕を真っすぐに見つめて、言った。「実は前から浅野くんのことが好きだった」と。
それ以降の砂場でのことは、頭の中が真っ白になったこと以外、何も覚えていない。
気づけば家にいた。誇らしさと照れ臭さとで、八歳の小さな心臓は大きく波打っていた。
翌日。いそいそと落ち着かない僕だったが、Xさんは話し掛けてこなかった。次の日も、その次の日も、Xさんは何も言ってこない。どういうつもりかと聞きたくて仕方がなかったが、僕には声を掛ける勇気がなかった。
一週間が過ぎ、一カ月が過ぎた。告白の衝撃も
「Xさん、クラスの男子全員に告白したらしいよ」
なんとXさんは毎日、クラスの男子を一人ずつ呼び出しては告白していたのだ。「Xさんに告白された」という男子が相次いだことで「犯行」が露見。問い
クラスの男子全員が、Xさんに弄ばれたわけである。
Xさんはなぜ、こんな真似を――当時は分からなかったが、今なら見当がつく。きっとXさんは、告白に動揺を隠せぬ僕たちを見て楽しんでいたのだ。予期せぬ出来事に惑う人間の可愛らしさを味わっていたのだ。
人間観察の魅力にいち早く気づいていたXさんは、ある意味、とても大人びていたのだろう。僕たちが手玉に取られたのも、無理はない。
さて、僕は冒頭で「告白されたことがあった」と書いた。だが以上の通りだから、実質的には告白されたことがないと言えそうだ。幸か不幸か、僕の自己紹介の十八番は、まだまだ使えるようである。
プロフィール
浅野皓生(あさの・こうせい)
2001年、東京都生まれ。東京大学法学部4年。「殺人犯」(「テミスの逡巡」と改題)で東大生ミステリ小説コンテスト大賞を受賞。
書籍紹介
東大に名探偵はいない
著者:市川 憂人、伊与原 新、新川 帆立、辻堂 ゆめ、結城 真一郎、浅野 皓生
定価: 1,815円 (本体1,650円+税)
発売日:2023年01月27日
東大卒&東大生作家による「東大ミステリ」アンソロジー!
収録作
「泣きたくなるほどみじめな推理」 市川憂人
1995年、憧れの従姉を失った私は、彼女の痕跡を探すため東大の文芸サークルに入った。
「アスアサ五ジ ジシンアル」 伊与原 新
地震研に突然届いた1枚のはがき。虹で地震を予知したという「ムクヒラの電報」との関連は。
「東大生のウンコを見たいか?」 新川帆立
東大卒のミステリ作家・帆立は、親友リリーとともに農学部で起きたウンコ盗難事件の犯人を探す。
「片面の恋」 辻堂ゆめ
五月祭の準備中、クラスメートの熱烈な恋を一瞬にして冷めさせた「片面」の意味とは。
「いちおう東大です」 結城真一郎
美しく完璧な妻がまっさきに提示した新居の条件は、「東大が見えるところ」だった。
「テミスの逡巡」 浅野皓生 (東大生ミステリ小説コンテスト大賞受賞作)
卒業生の医師を取材した学生メディア「UTディスカバー」のもとに、彼は人殺しだという告発状が届く。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202000823/
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掲載号紹介
小説 野性時代 第236号 2023年7月号
編 小説野性時代編集部
希望小売価格:385円(本体350円+税)
発売日:2023年06月25日
商品形態:電子専売
森絵都、青山文平、阿津川辰海という超豪華新連載3本がスタート! 宮内悠介、前川ほまれ、五十嵐律人の珠玉の読切も3本掲載! そして第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の結果発表!
【新連載】
森絵都――デモクラシーのいろは
一九四六年十一月、"民主主義のレッスン"が彼女たちの世界をひらく。
『みかづき』『カラフル』の名手が綴る、新たな青春成長小説。
青山文平――父がしたこと
秘密裏に告げられた御藩主の御病状。
失敗の許されない手術を引き受けた医師は、息子の命の恩人だった――。
阿津川辰海――バーニング・ダンサー
全世界で百人の能力者――「コトダマ遣い」。
特殊設定ミステリの気鋭が贈る、能力者vs.能力者の警察小説!
【読切】
宮内悠介――手と手のぶつかる距離
ビオラの音色から始まった謎。
少年たちの二重奏が織りなす軽やかで温かい青春ミステリ。
前川ほまれ――二人のエックス
休職を経てストレスケア病棟に異動した看護師の倉木。
ここには、ジェンダー外来で有名な先生がいる。
五十嵐律人――今際言伝
「同一日付の遺言書」に「逆さまの天使」。
無法律がダイイングメッセージの謎に挑む!
【結果発表】
第43回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞
【短期集中掲載】
木下昌輝――剣、花に殉ず
【連載】
赤川次郎――余白の迷路
秋山寛貴(ハナコ)――人前に立つのは苦手だけど
今村翔吾――天弾
恩田 陸――産土ヘイズ
垣根涼介――武田の金、毛利の銀
河崎秋子――銀色のステイヤー
新川帆立――目には目を
中山七里――こちら空港警察
増田俊也――七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり
【コラム】
告白します――浅野皓生「告白の告白」
告白します――青波 杏「ニューヨーク、零下六度」
【記事】
Book Review「物語は。」吉田大助
――朝倉宏景『サクラの守る街』
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