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【評者:河村拓哉(QuizKnock)】東大とは、普通の東大生がただの人になる空間である。――『東大に名探偵はいない』レビュー

東大出身作家が「東大」をテーマに執筆したミステリ小説集『東大に名探偵はいない』

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東大に名探偵はいない

著者:市川憂人、伊与原新、新川帆立、辻堂ゆめ、結城真一郎、浅野皓生



作品特設サイト:https://kadobun.jp/special/todai-mystery/

東大とは、普通の東大生がただの人になる空間である。

書評:河村拓哉(QuizKnock)

東大卒(本作デビューの現役東大生含む!)の推理作家6人によるアンソロジー。
6編全部が書き下ろしで、ここでしか読めない作品ばかりだ。

それにしても清々しいまでの東大押し。イエロー&ピンクの装丁も目立つ。
目立つから、本屋に平積みされているのを想像してみる。東大を誇るな! という声が脳裏に聞こえてくる。こういうことを言われるのもまた東大の宿命なり。
一方で、東大プッシュがあまり気にならない感じもする。「東大に名探偵はいない」という、妙な謙遜のせいである。「東京大学スーパー名探偵アンソロジー」みたいなタイトルで出ていたら話が違っただろう。東大に名探偵はいない、とはどういうことだろうか?

前提として、それぞれの話でちゃんと起こった事件は解決される。ミステリとしてスッキリするのでその点は安心していい。
探偵、いるじゃん。真相へいかに迫るかの差こそあれ、何かに気づいて話を進める聡明な人物は、それぞれの作品に登場する。
彼らは言ってみれば探偵である。名探偵ではないのだろうか。

ここで気づく。名探偵というのが、相対的な指標だとしたら。
東大生は頭がいい。頭がいいというのはあまり好きな表現ではないが、東大に入る条件は人生のどこかのタイミングで何教科何科目の入試を……と厳密にやってもうんざりするだけなので適当な表現でお茶を濁させてほしい。

東大生を中心に据えたことで、東大生が平均になった。東大とは、普通の東大生がただの人になる空間である。この東大環境で、頭がいいという称号は、少し控えめを要求される。こうして名探偵は自ら名乗らなくなった。いちおう探偵です、と言わんばかりに。

そしてそれは作家にとっても同じだ。もし東大を描いた一本の長編小説がこの濃度の東大成分で満ちていたら、東大の細かな描写が鼻につくだろう。
しかし本作では東大卒作家6人が集団をなしたことで、東大という一番のセールスポイントは表層的なものになった。だから本編ではもっと踏み込んで、様々なキャラクターがどのような東大関係者であるか――東大を前提とした状態で、その人がどのような人間であるか――に関心が置かれる。

難しく言ったが、東大の人が集まったので擬似的に東大になったのがこの本であると言えよう。以下個別に少しだけ触れてみる。

市川憂人「泣きたくなるほどみじめな推理」の舞台は阪神・淡路大震災のあった西暦1995年。憧れの従姉を失った私は、彼女の後を追って文芸サークルに入るが……。かつての東大の文化系サークルというかなり「濃い」空間と、だからこその謎が楽しめる。

伊与原新「アスアサ五ジ ジシンアル」では地震研究所に地震を予知するはがきが届く。標準的な科学とオカルトが交差し、随一のアカデミック色を見せる。科学者でもある作者が、東大の本分である研究をテーマにした、真っ向勝負の作品だ。

新川帆立「東大生のウンコを見たいか?」で扱うのは農学部で起きたウンコ盗難事件。ウンコに目が行きがちだが、実は社会派。重要だが重いテーマを軽快な筆致で描いており、ウンコで避けないで。

辻堂ゆめ「片面の恋」では恋愛の機微が描かれる。学園祭である五月祭の準備中、クラスメートの恋が冷めた。彼のいう「片面」とは何のことなのか。日常で起きかねないリアル感が、コロナ禍で失われた学園祭を想像させてくれる。

結城真一郎「いちおう東大です」はサスペンス。妻が新居に真っ先に出した条件は「東大が見えるところ」だった……。東大卒という生き物の精神的な内面に踏み込んでいくから、東大生の擬似体験ができる。もっとも、世間で言われるような良い部分ばかりではないけれども。

この本は作者の入学年度順で作品が並んでいる。奇妙だが、粋でもある。ラストを現役東大生のデビュー作で飾ることになるからだ。

浅野皓生「テミスの逡巡」では、卒業生である医師を取材した学生メディア「UTディスカバー」のもとに、彼が人殺しだという告発状が届く。弁護士を辞めて転身した外科医。彼が語る「法律の限界」とは。そして、彼は法律を超えたのか? 東大生ミステリ小説コンテスト大賞受賞作。

プロフィール



河村拓哉(かわむらたくや)
東京大学理学部卒業。2016年に伊沢拓司らとともにQuizKnockを創設。現在はYouTubeチャンネルの企画・出演のほか、クイズの制作・監修を行っており、クイズ大会「WHAT」では大会長を務める。2022年7月には、講談社「Mephisto Readers Club」にて自身初となる小説を発表。

作品紹介・あらすじ



東大に名探偵はいない
著者 市川憂人 伊与原新 新川帆立 辻堂ゆめ 結城真一郎 浅野皓生
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2023年01月27日

東大卒&東大生作家による「東大ミステリ」アンソロジー!
収録作
「泣きたくなるほどみじめな推理」 市川憂人
1995年、憧れの従姉を失った私は、彼女の痕跡を探すため東大の文芸サークルに入った。

「アスアサ五ジ ジシンアル」 伊与原 新
地震研に突然届いた1枚のはがき。虹で地震を予知したという「ムクヒラの電報」との関連は。

「東大生のウンコを見たいか?」 新川帆立
東大卒のミステリ作家・帆立は、親友リリーとともに農学部で起きたウンコ盗難事件の犯人を探す。

「片面の恋」 辻堂ゆめ
五月祭の準備中、クラスメートの熱烈な恋を一瞬にして冷めさせた「片面」の意味とは。

「いちおう東大です」 結城真一郎
美しく完璧な妻がまっさきに提示した新居の条件は、「東大が見えるところ」だった。

「テミスの逡巡」 浅野皓生 (東大生ミステリ小説コンテスト大賞受賞作)
卒業生の医師を取材した学生メディア「UTディスカバー」のもとに、彼は人殺しだという告発状が届く。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202000823/
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