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レビュー

自分の人生や幸せだけではなく 誰かの人生も視野に入れることで ──黒田小暑『ぼくはなにいろ』【評者:吉田大助】

物語は。

これから“来る”のはこんな作品。
物語を愛するすべての読者へ
ブレイク必至の要チェック作をご紹介する、
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『ぼくはなにいろ』黒田小暑(小学館)

評者:吉田大助



 その恋愛は、外見至上主義から生まれたものではないか? そこには、美醜にまつわる差別的感情が隠れているのではないか。否定するにせよあえて認めるにせよ、現代を舞台にした恋愛小説を書く場合、ルッキズムへの言及は避けて通れない。第二〇回小学館文庫小説賞受賞作『まったく、青くない』でデビューした黒田小暑は、第二作『ぼくはなにいろ』で、ルッキズムを色濃く盛り込んだ青春恋愛小説を書き上げた。前作は真っ黒な青春小説だったが……今作は何色か。
 多視点群像形式が採用された物語の幕開けは、二〇一九年九月。東京で清掃員として働く二〇代前半の祥司は、行きつけの飲み屋で二十歳の社会人・千尋と出会う。「その人がどんな人かを決めるのって、外身じゃなくて中身のはずなんですよね。でも、他人には、自分の外身しか見えない。これってなんだか、神様の設計ミスって感じがしませんか?」。実は、祥司は過去に起きたある出来事のせいで、自分の体は〈壊れた入れ物〉だと感じていた。〈この汚くて醜い体が絶対に人の目に触れないよう、いつも細心の注意を払っている〉。見た目的には〈間違いなく美しい女性〉である千尋の言葉は祥司の心を揺さぶり、偶然も味方につけて二人は少しずつ距離を縮めていく。
 一方、地方都市にある実家の文具店でアルバイトをする孝志朗は、やりたいことも未来への希望もなく、恋愛からも遠ざかっている。イケメンを武器に昔引っ掛けた高校の同級生から「付き合おうよ」と言われるものの断る日々。店の常連は、学校には行かず試し書きスペースで絵を描き続ける中学二年生の絵美だ。学校の「連絡係」としてやって来た少年が、絵美に渡してほしいという個人的な手紙の中継役を務めるうちに、人が人と心を近付けようとする営みの尊さに気が付いていく。
 外見に(身体に不自由があるゆえの、美人であるがゆえの)コンプレックスを抱く大人の男女と、顔も知らない少年少女。二組+αの恋愛の当事者と関係者を取り巻く物語は、相手の中身を好きになり自分の中身を好きになってもらう、そのような現象が起こるためには何が必要かを思い知らせてくれる。自分はこういう人間である、と言葉で知らせることだ。相手のその言葉を聞く耳だ。
 本作には、それぞれの語り手の人生が「丸ごと」乗っかった言葉が随所に顔を出す。そこで重要なのは、その言葉が、他ならぬその人から出たものであると感じさせる説得力だ。セリフはもちろんのこと、個々の実存を感じさせるディテール力が素晴らしい。例えば、YouTuberの企画などではよく目にするものの、小説でフィーチャーされているのを見かけたことはない「スクラッチくじ」が、孝志朗の趣味として登場し、彼の人生を表す比喩となっている。〈宝くじは生きてる理由とか意味にはならねえけど、ちょっとした楽しみにはなる。夢とか希望とか目標とか、そういう大層なもんがなくても、俺はそれくらいでじゅうぶんなんだ。ちょっとだけ先の、ちょっとした楽しみ。人生、これに尽きるな〉。
 確かに、それに尽きると思うのだ。人は、〈ちょっとだけ先の、ちょっとした楽しみ〉を見つけながら生きていく。自分の人生や自分の幸せだけではなく、誰かの人生も視野に入れたほうがそれらがずっと多く見つかるし、きっと楽しい。だから人は、恋愛をする。あるいは、誰かの人生が書かれた小説を読む。この物語は、手元にあるけれどまだ読み始めていない小説が〈ちょっとだけ先の、ちょっとした楽しみ〉になる、と告げるところで終わる。小説には、それくらいのことしかできないのかもしれない。でも、それくらいならできるのだ。

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