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連載

呉勝浩「スワン」 vol.12

無差別銃殺事件を生き延びた5人。彼らは、何を隠しているのか。呉勝浩「スワン」#12

呉勝浩「スワン」

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  徳下とくした宗平そうへいの覚え書き

 二〇一八年四月八日、日曜日。
 埼玉県湖名川市、湖名川シティガーデン・スワン。
 午前十一時から正午過ぎにかけて無差別銃撃事件が発生。
 死者二十一名。重軽傷者十七名。
 犯人A、大竹安和(37)。白鳥広場にて腹部を日本刀で刺し自害。
 犯人B、丹羽佑月(26)。スカイラウンジにて頭部を撃ち自害。
 犯人C、なかじゆん(19)。スワン本館の駐車場、ハイエースのなかで後頭部を撃たれて死亡。仲間割れ説が有力。 *この車は大竹安和がレンタルしたものだった。
 大竹安和は黒鳥広場から犯行を開始。銃を撃ちながら一階を白鳥広場へ向かった。
 丹羽佑月は白鳥広場から犯行を開始。広場にいた大学生、亀梨洋介(21)の射殺を皮切りに、居合わせた人々に次々と銃弾を浴びせた。
 吉村菊乃(78)が亡くなったのはスカイラウンジにつながるエレベーターの前である。
 以下、被害者を列記。

  (中略)

 パソコンやスマートフォンの履歴から、犯人グループの中心人物は丹羽佑月であったとみられている。丹羽と大竹安和はSNS上で軍事関連の話題を通じ意気投合していた。どちらからともなく誘い合い、計画を立案。遅れて中井順が参加。映画感想サイトで交流のあった丹羽が、ウェブ関連のスキルを期待し声をかけたと思われる。
 犯人グループは互いのやり取りにおいて大竹安和=「ガス」、丹羽佑月=「ヴァン」、中井順=「サント」と呼び合い、グループを「エレファンツ」と称していた。これは米国の映画監督ガス・ヴァン・サントからとられた名とみられている。 *彼が監督した『エレファント』はコロンバイン高校銃乱射事件を題材にした作品だ。
 丹羽佑月たちはウェブカメラ付きのゴーグルをつけ犯行に及び、十一時から正午までの一時間、みずからの行いを映像に残していた。映像は十分間ごとに小分けされ、事件当日の午後三時と午後六時に複数の動画サイトにばらまかれた。中井順があらかじめ、自動アップロードプログラムを組んでいたのだ。 *午後三時と六時はスワンの仕掛け人形が作動する時刻である。
 犯行をリアルタイムで記録した動画ファイルは丹羽と大竹のものが六個ずつ、計十二個。警察が削除に動いたため、現在この動画の閲覧はむずかしくなっている。

  (中略)

 以上の不可解な点にもとづき、本件依頼人はくわしい調査を強く望んでいる。


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