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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.99

【第259回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第259回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方は話を続ける。
「そしていまから三か月ほど前、やっと借金の返済がすべて終わった。ふたりは喜んだ。これでやっと、がむしゃらに働かなくて済むようになる。きっちりと借りを返した私たちは、誰にも責められずに済む。堂々と顔をあげて道を歩くことができる。原じいもきっと喜んでくれている――そのような会話を交わしたでしょう。結婚を控えている原告に安藤さんは、これからは幸せになるんだよ、そんなことも言ったかもしれません。でもそれが、安藤さんが起こしてしまった自転車事故によって、失われてしまいます」
 自転車保険に入っていなかった文子は、怪我をした男の子の医療費や後遺障害慰謝料などを含め、およそ三千万円近い賠償金を支払わなければならなくなった。でも、病院のベッドで眠っている本人には支払うことができない。
「本人が払うことができない賠償金――それが養子である原告の肩に伸し掛かってきたのです。それだけではありません。時を同じくして、自分が夜の銀座で働いていたことを、婚約者に知られてしまったんです」
 晶は黙っていたことを詫び、もうやめるはずだった、と伝えた。しかし、婚約者の藤本蒼汰は、もう一緒にはなれない、と結婚を取りやめた。
「婚約者が言うには、夜の仕事をしていたことが原因ではない、ずっと嘘をつかれていたことがショックだったそうです。なんとか自分自身を納得させようと、夜の仕事をしていた理由を訊いたりもしましたが、原告は明確な理由を言わなかった。ただ、お金が必要だった、としか言わない。原告に対して信頼が持てなくなった婚約者は、原告と別れることにした」
 晶のもとに残ったのは、たったひとりの孤独という悲しみと、多額の賠償金だった。
「やっと幸せになれる、そう思った矢先の出来事は原告をどん底へ突き落としたことでしょう。実際、原告が勤めていた店のそばにあるバーの主人から、そのころの原告の様子を聞くことができました。ひどく打ちひしがれていて元気がなかった、そう言っています。そして、それとほぼ時を同じくして、被告人が原告が勤める店を訪れています」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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