【第257回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第257回】柚月裕子『誓いの証言』
佐方が頷く。
「安藤さんは転倒した際に頭部を強打し、脳にかなりのダメージを負いました。しかし、脳幹という部分に損傷はなく、いずれ目を覚ます可能性はあります。ただ、さきほど申し上げたとおり、それがいつかはわかりません」
「いわゆる、植物状態ということですね」
乙部の隣にいる右陪席が訊ねる。
佐方はそちらを見て答えた。
「そうです。こうしているいまも、安藤さんは病院のベッドで眠り続けています」
するとこんどは、逆隣にいた左陪席が言う。
「証人が、今日ここに来られない理由はわかりました。しかし、それが今回の案件とどのようなかかわりがあるのですか」
佐方は目を床に落とした。
「それを、これからご説明します。なぜ、この事故がいまここで語られているか――」
佐方は顔をあげて、左陪席を見た。
「自動車を運転する際、自動車保険に加入しますね。それと同じように自転車を運転する際にも、自転車保険というものがあります。安藤さんは、それに加入していなかったのです」
なにかを察したように、法廷内がざわつく。
佐方は誰にともなくつぶやく。
「安藤さんは、原告の祖父であり自分の父親が亡くなったあと、連帯保証人という立場上、代わりに借金を返していたそうです。小さな原告を育てながら多額の借金を返す日々は辛く、安藤さんはかなり
(つづく)
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