
【インタビュー】作家・似鳥鶏が選ぶ 私のおすすめミステリ 第16回
作家が選ぶ 私のおすすめミステリ

手に汗握る衝撃的な展開やドキドキの伏線回収など、数多くの人気作品が生まれる“ミステリ”ジャンル。そんな作品を生み出している作家の皆さんは、かつてどんな作品に出合い、そしてどのように自身の物語を生み出しているのだろうか?
今回は2025年9月22日に『小説の小説』が文庫化された作家・似鳥鶏さんに、おすすめのミステリ作品を伺いました!
現役作家が語るおすすめミステリという、カドブンならではの貴重なインタビューです!
――似鳥さんおすすめのミステリ作品と、それぞれおすすめの理由も教えてください!
1:『午後の恐竜』星 新一(新潮文庫)
子供の頃、一番読んだのは星新一先生のショートショートですが、一般的にSFに分類されている作品の中に、ミステリとして非常によくできたものがありました。
おすすめは短編ミステリとして非常にきれいな構成をしている「午後の恐竜」(新潮文庫『午後の恐竜』収録)です。
2:「三毛猫ホームズ」シリーズ 赤川次郎(角川文庫)
また、特にミステリとは意識せず、ただキャラクターが好きで追いかけていたのが赤川次郎先生の「三毛猫ホームズ」シリーズ。
1巻の『三毛猫ホームズの推理』(角川文庫)にはぶっ飛んだ物理トリックも出てきて楽しいです。
――素敵な作品をご紹介いただきありがとうございます!
似鳥さんが作家になることを決めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
小学生の頃、父が職場で使わなくなったワープロ専用機(「書院」)を持ってきてくれまして、カタカタとキーを叩いて文章を表示させるのが楽しかったことを覚えています。
2つ上の兄はどちらかというと「罫線」を使って絵を描いたり、色々な遊び方を開発したりしていましたが、今はゲーム会社で企画の仕事をしています。
私はもっぱら文章ばかり書いていて、現在はこの仕事になりました。兄弟でも個性が出るものですね。
『小説の小説』は明らかに筒井康隆先生の影響ですが、小説そのものを書き始めたきっかけは「道具」です。字が下手なので、ワープロ専用機とコンピューターのない世界線だったら小説は書いていなかったでしょうね。
――お父様のワープロと出合ったことが、小説を書くきっかけに繋がったんですね。
ミステリ作品を執筆するうえで、作品のこだわりや意識している点はございますか。
あくまで娯楽なので、嫌な気分になるものは必要最低限しか入れないし、必要がない限りはハッピーエンドにするようにしています。
特に「私はこれを表現したいんだ!」というものはなくて、ただ自分の書いた話を読んでもらって、楽しんでもらえれば嬉しいという、非常に単純な動機で仕事をしております。
社会的なテーマが入ることもありますが、その場合でも「人々を退屈させるのは罪だ。何か大切なことを言いたいなら、それをチョコレートにくるみなさい」というビリー・ワイルダーの言葉を横に置いています。
もっともこれ、エンターテインメント作品の作り手に対しての言葉でして、政治家とかに適用し始めたらえらいことになるので注意が必要なんですが。
――“エンタメ作品としての小説”という姿勢を大切にされているんですね。
本作の着想のきっかけと、読みどころをお伺いできましたら幸いです。
特に本作では、小説のルールをあえて逆手に取ることを意識しながら執筆されたかと存じますが、ミステリ作家として改めて『小説の小説』に収録された5編を読んでみた時のご感想もお伺いできましたら幸いです。
エンタメ全振りのメタ・フィクションというジャンルですが、形式的には濃淡の差はあれミステリ的な構造で書きました。
それぞれの作品についてですが、「文化が違う」にはほぼミステリ要素はありませんが、「立体的な藪」はそのまま本格ミステリのハウ&フーダニットで、ちょっと今までにない角度から推理合戦をする、というコンセプトですし、「無小説」もストーリーラインは倒叙もののミステリです。
「曰本最後の小説」も「どこまで内容を減らして読んでもらえるか?」という、「作者が作者に仕掛けるハウダニット」みたいな感覚で書いていました。
魅力的な謎→ヒントの提示→合理的な解決 というミステリの構造は他のあらゆるジャンルに応用できるので便利です。
ミステリとして読んでも、これまでに類例のないハウダニットだったり、後期クイーン問題への新機軸の回答だったりと面白い試みになっていたりしますので、ミステリファンの皆様にも読んでいただきたいです。
――ありがとうございます! 似鳥さんの“ミステリ”に対するたくさんの創意工夫が詰まった本作。普段ミステリ作品をよく読む方、そして新しいエンタメ作品との出合いを探している方も、ぜひ手に取ってみてくださいね!
『小説の小説』
書 名:小説の小説
著 者:似鳥 鶏
発売日:2025年09月22日
本格ミステリの著者が描くメタ・フィクション!「常識」に捉われるべからず
いつものように殺人現場に出くわしてしまった名探偵。華麗な活躍で事件が解決したはずだったそのとき、思わぬ《伏兵》が推理を始め……?(「立体的な薮」)/異世界転生し、チート能力で無双する。誰もが夢見るシチュエーションに恵まれた「俺」だったが、最大の敵は、言葉の《イメージ》だった!(「文化が違う」)/「小説」とは何か、「書く」とは何か。創作の限界に挑む、これぞ禁断の小説爆誕!(「無小説」)/時は新法が成立し、検閲が合法化された曰本。表現の自由が脅かされる中、小説家の渦良は、《あらゆる》手を尽くして作品を書き続けるが――。(「曰本最後の小説」)
本格ミステリの著者が挑んだ新境地、メタ・フィクション! あなたが知る小説の概念を覆す、驚きの5編を収録!
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