2022年8月に文庫化され、すぐに書店店頭、SNSなどで大好評となった『育休刑事』。捜査一課所属の巡査部長が1年間の育児休業を取り、復職した妻と協力しながら育児に専念する……かと思いきや、トラブル体質の姉のせいなのか、行く先々で事件に巻き込まれるミステリ作品です。
ミステリらしい驚きの仕掛けあり、警察ものらしいハードな展開もありですが、育児のディテールに共感できるというご感想も。育児経験者でもある著者の似鳥さんに、作品について伺いました。
『育休刑事 』著者・似鳥鶏さんメールインタビュー
――この度は『育休刑事』文庫版の刊行、おめでとうございます。本作は捜査一課の男性刑事が1年間の育児休暇中に事件に巻き込まれ、息子連れで探偵役を務めるミステリ連作ですが、改めて、どんなふうにできあがった作品なのか教えてください。
似鳥鶏さん(以下似鳥):息子(現在5歳)が生まれ、あれこれ育児でばたばたする中で、どうも世の中「積極的に育児を手伝う」男性は増えてきたが、「本当に半分以上分担している」男性はあまりいないようだ、と知りました。実際、当時は抱っこひもをつけて父親だけで外を歩いている人もほとんど見ませんでしたし、休日のお出かけや買い物に「父親だけ」で子供を連れているのも見ませんでした。私はたまたまこういう立場なので可能だったわけですが。
もしかして自分は珍しい体験をしているのでは、と気付き、それならネタになるぞ、と思いました。後に同じく育児中の白岩玄さんと対談をさせていただいたのですが、白岩さんも同じようなことをおっしゃっていました。当時「普通にまる一日ワンオペ育児をしたりしている男性」の「小説家」というのは、他にあんまりいなかったのではないでしょうか。
――既に作品を読んだ方からは、「育児のディテールがとてもリアル!」と感想が寄せられています。ご自身の体験が生かされたのでしょうか?
似鳥:ありがたい感想ですが、前述の通り実体験そのままなので。
ただ、珍しい体験だからメモしておこうと思い、妻の妊娠中からメモはとっていました。胎動が分かった時の心理とか、妊婦健診時の父親の扱い、分娩室の様子までメモが残っています。出産時、妻が非常に冷静だったのでこちらも余裕があったのかと。
――主人公で育休中の刑事・春風(はると)はある意味でとても“普通”ながら、出産からわずか3カ月で復職した妻を気遣う素敵な夫・父親だと感じました。キャラクター造形について、好きなところ、こだわった点などありますか? また、他にもお気に入りのキャラクターがいれば好きなところを教えてください。
似鳥:主人公は育児エッセイなどによく出てくる「優しくて控えめなメガネ夫」にしないようにしよう、と決めました。そういう人でなくても育児はする。男っぽくてマッチョなタフガイに育児をしてもらいたかったので。
理想のイメージは「子連れ狼」です。中性化しなくても、男性から見てかっこいいタフガイのままでも育児はできる、というのがテーマでもありました。
あと、名コンビゆえ「プリキュア」と呼ばれていた高校時代の姉×奥さんは書いてみたいです。
――一方で、本格的なミステリ作品としても手に汗握る展開を楽しむことができる本作。ミステリとしてこだわりのポイントはありますか?
似鳥:「〇〇×ミステリ」というふれこみの作品はたくさんありますが、「ミステリ風味」に留まっている作品も多いです。ですが私が「育児×ミステリ」と言ったらガチガチの育児話×ゴリゴリの本格ミステリです。そこの部分の自負はあります。
――これまでなかなか登場しなかった育児×ミステリという掛け合わせですが、シリーズ続編など同じテーマで作品を作られることがあれば、どういったことを書いてみたいと思われますか?
似鳥:保育園ネタはいろいろあります。10件も見学に行ったのに園の説明をする先生が誰一人としてこっちを見て話してくれない(母親だけに話す)とか。「男性の育児」ならではのことがたくさんあるので、まだまだ書いて、男性が育児をすることへの抵抗がなくなっていけばいいと思っています。
――ありがとうございました!
作品紹介
育休刑事
著者 似鳥 鶏
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2022年08月24日
事件現場に赤ちゃん出動!? 育児も謎解きも全力の新感覚本格ミステリ!
捜査一課の巡査部長、事件に遭遇しましたが育休中であります! 男性刑事として初めての1年間の育児休暇中、生後3ヶ月の息子を連れているのに、トラブル体質の姉のせいで今日も事件に巻き込まれ―!?
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