
貴志祐介が描くホラーミステリの極北 。あなたの罪が、あなたを殺す。── 『梅雨物語』レビュー【本が好き!×カドブン】
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『梅雨物語』レビュー【本が好き!×カドブン】
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、Toshiharuさんの『梅雨物語』に決まりました。ありがとうございました。
真の恐怖は自分の内側に潜んでいる
レビュアー:Toshiharuさん
恐怖には色々な種類がある。外部からの暴力もあれば、うっかりと高いところから転落しそうになってひやっとする、暴言によるパワハラのように精神的にダメージを受けるものなど、様々だろう。
そんななかでも一番恐ろしいと思えるのが自分自身が封印した記憶が揺り起こされて感じる恐怖ではないかと本書を読み終えて思う。「皐月闇」「ぼくとう奇譚」「くさびら」という中編3作が収録されている本書は、それぞれに独自の世界を展開しながら、うちなる恐怖という感覚を読み手に強く感じさせる。
特に「皐月闇」の展開の恐ろしさは初体験のものだった。俳句部の顧問だった教師が引退して独り住まいしている家に教え子だった女性が訪ねてくるところから始まる物語は、女性が抱える俳句にかんする悩みを一緒に考える淡々とした物語が展開されていく。鍵を握るのは元教師の内側に封印された過去の記憶で、教え子がそれをじわじわと揺り動かし、心のかさぶたをはがしていくことで元教師が目を背けていたドロドロとした過去の行為を白日のもとに晒していく。元教師と教え子がともに見つけたとっかかりから推理をともに展開させていく流れと思わせる導入から、最後は鮮やかに読み手を恐怖のなかに突き落とす展開はさすが貴志さんと唸らされる構成力と感じた。
いや、これは正しくない表現かもしれない。読み手は最後にいきなりどんでん返しで恐怖のなかに突き落とされるというより、途中からラストへの導線に気付かされつつ、いや、でもまさか、、、と思わされながら読む人が過半だろうと思う。予感するラスト、それが具現化する展開、すべてが計算されているのだろう。中編という程よいボリュームとあわせ、だれることなく一気に読みきることでしっかりと余韻まで味わえるそんな佳作がそろった一冊でした。
▼Toshiharuさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no13043/index.html
書誌情報
梅雨物語
著者 貴志 祐介
発売日:2023年07月14日
貴志祐介が描くホラーミステリの極北 。あなたの罪が、あなたを殺す。
・命を絶った青年が残したという一冊の句集。元教師の俳人・作田慮男は教え子の依頼で一つ一つの句を解釈していくのだが、やがて、そこに隠された恐るべき秘密が浮かび上がっていく。(「皐月闇」)
・巨大な遊廓で、奇妙な花魁たちと遊ぶ夢を見る男、木下美武。高名な修験者によれば、その夢に隠された謎を解かなければ命が危ないという。そして、夢の中の遊廓の様子もだんだんとおどろおどろしくなっていき……。(「ぼくとう奇譚」)
・朝、起床した杉平進也が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色とりどりの見知らぬキノコだった。輪を描き群生するキノコは、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くしていく。キノコの生え方にある規則性を見いだした杉平は、この事態に何者かの意図を感じ取るのだが……。(「くさびら」)
想像を絶する恐怖と緻密な謎解きが読者を圧倒する三編を収録した、貴志祐介真骨頂の中編集。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112001253/
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