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連載

カドブン meets 本が好き! vol.55

殺人犯と、娘を殺された父。 死刑執行を前に、 命懸けの対話が始まる。── 『最後の祈り』レビュー【本が好き!×カドブン】

カドブン meets 本が好き!

『最後の祈り』レビュー【本が好き!×カドブン】

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、MOTOさんの『最後の祈り』に決まりました。ありがとうございました。



自分を見捨て、この世に見切りをつけたい少年が無差別殺人をおこし『死刑執行室』の扉を開けた。 もしも神がいるならば罪深き人間の魂をどうするのだろう…。死刑囚よりも震えていた自分の手。

レビュアー:MOTOさん

自分が本当の父である事を娘に打ち明けられない事情がある牧師『保坂宗佑』は
母の親しい友人として、常に彼女の幸せを願い見守っていた。
その娘も年頃になり、結婚と同時に妊娠の報告も。
嬉しい事が重なり、幸せに包まれていた矢先の不運だった。

暴漢に襲われ愛する娘はお腹の子と共に殺されてしまった。
突然地獄に落とされた様に世界が一変してしまった保坂に追い打ちをかけたのが
犯人の男、石原の態度だった。
彼は口うるさかった祖母を殺した後、娘の他に若い女性をも殺害。
4人もの人間を殺しておきながら贖罪や反省の意も無く「死刑判決」に満足げな様子。
まるで自分が死にたいが為に他人を巻き添えにしたかの様な理不尽さに牧師としての自分を忘れる程、犯人を憎んだ。

そして
(人を殺し、世を憎んだまま思い通りに死なせるわけにはいかない)と、
死刑囚の心に救いを与える役割の教誨師を請け負う事にしたのだ。

死んで清々したい死刑囚石原と
その石原に娘を殺され、生きたいと思わせたうえで死なせたい保坂との対話が始まる…。

私はテレビのテロップなどで稀に
「先ほど、誰誰の死刑が執行されました」という速報を見て
死刑になる程の事件を起こしたんだから、死んで当然と思った事はない。
同じ人間が同じ人間の命を強制終了しなければいけない事実をただ哀しく思うだけ。

それもテロップが消える頃には
もうそんな気持ちも早々に薄まり始めてしまうが、
この小説はそれを許さなかった。

死刑囚やその執行に関わる人々、牧師や刑務官の心情にまで細やかに触れ、
見届けるまで出口なしの空間に変えてしまうのだ。

世間には(済んだ)情報だけを流してこれまで知り得なかった別世界。

ここは地獄だ。と、閉塞感に震えていたが、
もしかしたら
地獄でこそ一筋の光のありがたみを知るのかも知れない。

誰も自分の事は愛してくれず、孤独の中でもがいていた石原の闇は息苦しかったが、
復讐目的で近づいた保坂の心情の微かな隙間から漏れた光が
死の間際にいる彼に温かく注いでいるかの様に見えて
本を閉じた後もずっと涙がとまらなかった。

▼MOTOさんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no4759/index.html

書誌情報



最後の祈り
著者 薬丸 岳
発売日:2023年04月21日

殺人犯と、娘を殺された父。 死刑執行を前に、 命懸けの対話が始まる。
娘を殺した男がすぐ目の前にいる。贖罪や反省の思いなど微塵も窺えないふてぶてしい態度で。

東京に住む保阪宗佑は、娘を暴漢に殺された。妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。牧師である宗佑は、受刑者の精神的救済をする教誨師として犯人と対面できないかと模索する。今までは人を救うために祈ってきたのに、犯人を地獄へ突き落としたい。煩悶する宗佑と、罪の意識のかけらもない犯人。死刑執行の日が迫るなか、二人の対話が始まる。動機なき殺人の闇に迫る、重厚な人間ドラマの書き手・薬丸岳の新たな到達点。

〈著者・薬丸岳さんから〉
「死刑になりたいから人を殺した」
「誰でもいいから人を殺したかった」
世間で無敵の人と呼ばれる凶悪犯には心がないのか。いや、そんなはずはないという祈りを込めました。
ぼくの作品の中で最も重く苦しい物語です。どうか覚悟してお読みください。

〈担当編集者から〉
 「罪を憎んで人を憎まず」と言いますが、実際に愛する人を殺されたら、そうすることはできるのでしょうか? この究極の問いを突き付けられるのは、牧師であり、無償で受刑者の精神的救済もしてきた主人公・宗佑です。品行方正に生きてきたのではなく、過去に犯した罪の罪悪感に苦しんできた宗佑。自分が救われたように、人々を救いたいという強い気持ちを持って真摯に仕事に取り組んできた彼が、何よりも大事にしてきた娘を惨殺されたら――。復讐という動機で犯人に接する宗佑に湧きおこる、まさかの感情。犯人と、彼をこの世で一番憎んでいる宗佑との対話。重いテーマではありますが、読む人の心を揺さぶる傑作です。ぜひご一読ください。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000359/
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