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連載

カドブン meets 本が好き! vol.54

男が女を犯せぬ国があるという。── 『忘らるる物語』レビュー【本が好き!×カドブン】

カドブン meets 本が好き!

『忘らるる物語』レビュー【本が好き!×カドブン】

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
今回のベストレビューは、作楽さんの『忘らるる物語』に決まりました。ありがとうございました。



人の愚かさも、気高さも、鋭く射貫く描写が印象的でした

レビュアー:作楽さん

 心の底ではわかっていながら、目を背けてきたことがそのままことばとして綴られている、わたしにはそう思えた作品でした。

 世の中に持つ者と持たざる者がいることは歴然とした事実です。時代によって『腕力』を持つ者が有利になることもあれば、『金銭』や『地位』を持つ者が有利になることもありますが、持つ者と持たざる者に隔たりがあることに変わりはありません。本作では、『人間の幸福は、たいていはどの女の腹から生れ落ちるかで決まった』と表現されています。

 本作の主人公、環璃ワリは、北原ほくげん月端げったんの女王で、同じく王族出身の夫と 13 歳で結婚したあと 16 歳で子供を産み、底辺の人々が羨んだであろう暮らしをしていました。それがある日、月端を含むすべての国の頂点に立つさんという国の差し金により、夫を含む一族が根絶やしにされます。子とふたり生き残ったものの、子が人質となっているため、環璃は、燦に完全に支配された状態に陥ります。

 本作では、その『支配』がテーマのひとつになっています。『かつて自分たちを苦しめた支配であることに、支配に回った者は気づきもすまい』と、支配を受けた痛みを忘れて支配する側に立つ者の愚かさが指摘される場面があったり、支配される者に『牙を剥く以外の選択肢を与えそれを自主的に選ばせることで、喜んでこちらに同化させること』が本当の支配だと語られる場面があったりします。

 支配され苦しむ環璃が願うのは、確神ゲゲルと呼ばれる確たる神とともに生き、子を取り戻すことです。確神とともにあれば、男を一瞬で灰燼はいにする力を得られ、支配に屈することなく生きることができるのです。

 しかし、環璃に訪れた転機は意外なものでした。旅の途中で知り合った女性を信じ、彼女に自らの国を与え、彼女の過去を知りたいと願い、心を預けたことをきっかけに思わぬ道を辿ることになります。

『やっと、わたしのものを分け与えることができた、と環璃は思った』という一文を読んだとき、状況が本当に変わるのは、結局、人を大切にし、人から大切にされたときなのだと、目を背けていたことを直視させられた気がしました。

▼作楽さんのページ【本が好き!】
https://www.honzuki.jp/user/homepage/no277/index.html

書誌情報



忘らるる物語
著者 高殿 円
定価: 2,090円 (本体1,900円+税)
発売日:2023年03月10日

男が女を犯せぬ国があるという。
金出づる国、燦という大国が支配する世界。貧しい土地で育ち、産んだばかりの子を奪われた環璃ワリは、ひとり輿に乗せられ運ばれていた。「皇后星」に選ばれた環璃は、次の燦帝候補である四人の藩王のもとを巡って閨をともにすることになる。その道中で山賊に襲われたところを助けたのは、触れた男を一瞬で塵にする不思議な力を持った女性・チユギだった。その力に憧れながらも、帝までたどり着いて成し遂げるべきことを決意した環璃。運命に抗い、死と隣り合わせの旅を生き抜こうとするが――。彼女がたどり着いた、女が産み、男が支配する世界を変える「忘れられた物語」とは?

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000889/
amazonページはこちら


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