【本が好き! × カドブン】コラボレビュー! 第2回『麒麟児』
カドブン meets 本が好き!
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書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」(https://www.honzuki.jp/)に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します!
>>第1回『戒名探偵 卒塔婆くん』
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第2回のベストレビューは、m181さんの『麒麟児』に決まりました。m181さん、ありがとうございました。
勝海舟がすごすぎる。たぶん、作者の冲方丁さんは、勝の大ファンだと思う。スリリングな展開で、江戸城無血開城の裏側が描かれていました。
この本のタイトルは「麒麟児」と言います。
この麒麟児は、二人の人物を指し示しています。
江戸無血開城について会談した官軍と幕軍の代表、
勝海舟と西郷隆盛のことです。
この当時は、勝阿波守と西郷吉之助だったと思うのですが、僕は後の定着した呼称である海舟と隆盛と呼びたいと思います。
雑誌の「野性時代」で連載していたのは知っていました。
知り合いが、あの雑誌のファンで「勝が、とにかく、かっけー」と連呼していたのを覚えています。
その理由が、この本を読んでわかりました。
この物語の勝海舟は、もはや、超人ですよ。頭脳明晰、行動力がすごく。
人格まで尊敬に値するような人なのです。
実際には、こんな完璧な人間はいないと思います。
冲方さんは、かなり話しを盛っている可能性あり。
この勝海舟のカッコよさが、この物語の軸になっており、
とにかく、読ませます。どんどん、引き込まれていく。話しがおもしろい。弱者の駆け引きとか、そういうのがハマりました。
お前は諸葛孔明かと、つっこみを入れたくなるほど、すごい。
そして、相方の西郷さんもすごい。
この二人の時代の寵児が、とてつもなく魅力的に描かれています。
もう、それだけで読む価値ありの作品でした。
西郷のことを、「小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響く」と評したのは、かつて勝が手足のように使い、頼った末、京の一角で暗殺された、坂本龍馬という土佐藩出身の浪人である。まったくその通りだと勝も考えていた。天下について問えば天下のことが、正義について問えば正義のことが、西郷の内より大きく響き出す。
p31
「勝安房守は、味方のなかには敵が沢山いるくせに、敵のなかには敵らしい敵がいない」 という状況を作り出していた。それがあるいは勝をここまで生き延びさせ、そしてまた今の大役を背負わせることになった要因だろう。
p43
このように勝や西郷を深く掘り下げています。
いくつか新たな発見がありました。
山岡鉄舟が、西郷の元に勝の手紙を届ける、あの見せ場。
「西郷どん」や、他のドラマ、映画、小説などでも、必ずアクションシーンとなる場面なのですがこれは史実ではありません。
幕府側にとらえられていた薩摩の男が、勝の気持ちに賛同し道案内を買って出て簡単に西郷に会えてしまいます。
あえて、史実通りに描いたのは、たぶん、西郷の度量の深さを際立たせる演出でしょう。
作者は、いたるところで、これをやっております。
とくに、前半から中盤にかけては見せ場の連続。
二人の会談ですが、二人で江戸城の中でやったと思っていたのですが。
じゃなかった。
江戸の端っこでやってたのです。そりゃ当然、まだ、戦争中なのですから、江戸城に入れるわけありませんよね。
背景にある二人の駆け引き、イギリスのパークス大使の存在、榎本武揚の幕府の軍艦。
勝は、手持ちのカードを駆使し、密偵に情報収集させ、まるで、現代の外交場面のように戦います。
すごいハラハラドキドキの展開。
この物語の2つ目の魅力は、ここ。
二人の麒麟児の背景にあった事情です。
江戸無血開城の後は、少しトーンダウンするのは、勝海舟が歴史のキーマンではなくなったからですが、幕府側の視点から見た色んな人の思惑、行動、大義はなかなかに面白かった。
300ページが、あっと言う間に過ぎていきました。
おもしろかったです。
☆m181 さんレビューページはこちら→https://www.honzuki.jp/book/272699/review/219582/(本が好き!)
▼『麒麟児』関連記事
・試し読み①
https://kadobun.jp/readings/530/cec6f187
・著者・冲方丁さんインタビュー【前編】「『麒麟児』という言葉に込めた思い」
https://kadobun.jp/interview/144/0f46d8c3
・冲方丁×出口治明 / 対談 「現代の我々が引き継ぐべき知恵がここにある」
https://kadobun.jp/talks/89/0d924988(「本の旅人」2019年1月号より)
・レビュー①「男たちの静かな戦いが、江戸の街を守った」
https://kadobun.jp/reviews/568/658c6663(「本の旅人」2019年1月号より)
・レビュー②「風に乗るのでも強めるのでもなく風を束ねる者こそが、麒麟児。」
https://kadobun.jp/reviews/586/13e2a68e(「小説 野性時代」2019年2月号より)