『天地明察』『光圀伝』『はなとゆめ』以来、冲方丁さんの5年ぶりの歴史長編となる『麒麟児』は、「江戸無血開城」を成し遂げた勝海舟と西郷隆盛を濃密に描いた作品。
歴史に関する数々の著作を持ち、ライフネット生命の創業者でもある立命館アジア太平洋大(APU)学長の出口治明さんと、「無血開城」が達成した意味、勝海舟の人物像などについて語り合いました。
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額縁は「運命の二日間」

冲方:麒麟児きりんじ』では勝海舟と西郷隆盛の会談を柱に、近代日本の行く末を決定づけたと言っても過言ではない「江戸無血開城」に至った経緯を書きました。無血開城を取り上げたのは、個人的に好きなエピソードであるのと同時に、現代の我々が引き継ぐべき知恵がここにあると思ったからです。

出口:勝と西郷が対峙たいじした二日間に焦点を定めて、物語をぎゅっと凝縮されたのはさすがの慧眼けいがんで、素晴らしいですね。実は、本作を拝読して、とあるアーティストの作品がふと脳裏をよぎりました。アニッシュ・カプーアというイングランドを代表する現代芸術家の「Sky Mirror」というオブジェです。これは直径五メートルほどのステンレス製の円形鏡で、それが公園にぽつんと置かれているのですが、上を向いているので鏡面にはずっと空が映っています。僕はこの鏡は空を切り取る額縁だと解釈したのです。ただ空を眺めるだけでは、「広いな、きれいだな」程度のぼんやりとした思いしか湧いてきませんが、五メートルの円形に区切られた空を見ていると、雲の流れや明暗の変化など、空のあらゆる事象に気づくことができる。冲方さんが、幕末の二日間に限定した物語を書かれたのは、これと同じ効果を狙ってのことだと推察しました。

冲方:うれしいご指摘です。おっしゃる通り、幕末は、その全てを書こうとすると、ただただ混乱した物語を提供する結果になりかねません。

書籍

『麒麟児』

冲方 丁

定価 1728円(本体1600円+税)

発売日:2018年12月21日

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    書籍

    「本の旅人2019年1月号」

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2018年12月27日

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      書籍

      『天地明察(上)』

      冲方 丁

      定価 596円(本体552円+税)

      発売日:2012年05月18日

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