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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.126

【第286回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第286回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方が晶に頭をさげる。
 どうして弁護人が、原告のために動くのだろう。その疑問が顔に出ていたらしく、小坂が横から説明した。
「うちの先生、こういう人なんです。一文にもならないことでも、真実を明らかにするために動く人なんです」
「真実――」
 佐方は俯き加減につぶやく。
「事実と真実は違います。目に見える事実だけではなく、事件の動機――真実がわからなければ、本当に事件が解決できたとは思いません。私は藤本さんに、この事件の事実ではなく、真実を知ってほしかったんです」
 佐方を見つめる視界に、小さな影が映った。その影は次第にこちらに近づいてくる。
 晶が佐方の後ろを見ていることに気づいたのだろう。小坂が振り返った。あ、と短い声をあげて名前を呼ぶ。
「藤本さん」
 やはり、そうだ。蒼汰だ。懐かしい姿に、胸が熱くなる。
 蒼汰がそばにやってくると、小坂が面白くなさそうに口をとがらせた。
「連絡するまで、正面玄関のところで待っててくださいって言ったじゃないですか」
 蒼汰は肩をすくめて、小坂に詫びる。
「すみません、なかなか連絡が来ないから待ちきれなくなってしまって――」
 蒼汰が晶を見る。晶は目をそらした。まともに顔を見ることができない。
「晶――」
 蒼汰の声に、肩がびくりと跳ねる。蒼汰は優しい声で、晶に話しかける。
「なにも知らずに別れようなんて言って、晶を傷つけた。ごめん」
 晶は俯きながら、首を横に振った。蒼汰が謝る必要などない。どのような理由があろうと、嘘を吐いた自分が悪いのだ。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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