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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.125

【第285回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第285回】柚月裕子『誓いの証言』

 小坂の返事を聞いた佐方は、晶に向き直った。
「晶さん、あなたに会いたいと言っている人がいます」
 晶は目を伏せた。いまの自分に会いたい人なんて、新聞記者かマスコミの人間だろう。彼らに話すことはなにもない。
 私は会いたくありません、晶はそう言いかけた。しかし、その言葉を遮るように、佐方が急くようにその人物の名前を言う。名前を聞いた晶は、自分の耳を疑った。聞き間違いだろうか。
「あの――もう一度言っていただけますか」
 晶は佐方に頼んだ。佐方がもう一度、こんどは先ほどよりゆっくりと言う。
「藤本蒼汰さんです」
 晶は声を失った。どうして別れた蒼汰が、自分に会いたいと言っているのだろう。復讐をしようとしたかつての恋人を責めに来たのだろうか。人でなし、悪人、と罵りに来たのだろうか。
「私、会いません。いえ、会えません」
 怯えからか怖さからか、足が震えてくる。俯いた晶の顔を、小坂が覗き込んできた。
「藤本さん、今回の事件の真相を知って、本当の晶さんと話がしたいって言ってるんです」
 本当の私――いったいどういう意味だろうか。
 ゆっくり顔をあげると、小坂と目があった。小坂は丸い目で、晶を見つめた。
「最終弁論のあと、先生は藤本さんに会いに行ったんです。晶さんがどうして銀座の店に勤めていたかを説明しに」
 晶は驚いて佐方を見た。佐方は困ったように頭を掻きながら言う。
「藤本さんは、あなたが嘘をついていたことが許せなくて婚約を破棄したと言っていました。でもそれは、晶さんにはどうしても話せない事情があったからです。藤本さんをだまそうと思って黙っていたわけじゃない。その誤解だけは解いておきたいと思って、会いに行きました。余計なことだとは思ったんですが、すみません」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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