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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.124

【第284回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第284回】柚月裕子『誓いの証言』

 晶は大橋に訊ねた。
「大さん、一緒に男ノ来島に行ったこと、覚えてる?」
 大橋が何度も頷く。
「ああ、フェリーに乗って行ったよな。原じいとアキちゃんと俺と三人で。今日みたいに晴れた日で、風が気持ちよかった」
「あのとき、灯台を見たよね。おじいちゃんに仕事を教えてくれた人が作った――」
 大橋が晶の肩から手を離し、手の甲で自分の目元を拭う。
「たしか、ガンさんって言ったよな」
 頷く晶の目に、誇らしげに灯台を見あげる原じいの姿が蘇ってくる。
 あの灯台はいままでも、これからも瀬戸内海を渡る船を見守り、正しい道へ導いていく。人生を航路にたとえるならば、自分は船の進路を間違えてしまった。迷い、座礁し、もう出航できないくらい壊れてしまった。いったい、どこで道を誤ってしまったのか。
 ――いま、満足ですか。
 秋の陽を見つめる晶は、さきほど自分を囲んだ人垣の誰かが叫んだ言葉を思い出した。
 自分の企みは暴かれ、久保は無罪になった。だが、久保は今回のことで仕事も家庭も社会的信用も失った。久保からすべてを奪うという目的は果たせた。しかし、気持ちは晴れない。胸のなかに、真っ黒い泥のようなものが沈んでいる。
 三人のあいだに沈黙が広がったとき、遠くから女性の声がした。
「先生」
 佐方と一緒にいた女性だ。こちらに向かって駆けてくる。女性は佐方のところまでやってくると、立ち止まった。
「小坂、どうだ」
 佐方が訊ねる。女性の名前は小坂らしい。
 小坂は呼吸を整えながら、佐方に言う。
「はい、いらしてます。正面玄関の前で待ってもらっています」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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