【第284回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第284回】柚月裕子『誓いの証言』
晶は大橋に訊ねた。
「大さん、一緒に男ノ来島に行ったこと、覚えてる?」
大橋が何度も頷く。
「ああ、フェリーに乗って行ったよな。原じいとアキちゃんと俺と三人で。今日みたいに晴れた日で、風が気持ちよかった」
「あのとき、灯台を見たよね。おじいちゃんに仕事を教えてくれた人が作った――」
大橋が晶の肩から手を離し、手の甲で自分の目元を拭う。
「たしか、ガンさんって言ったよな」
頷く晶の目に、誇らしげに灯台を見あげる原じいの姿が蘇ってくる。
あの灯台はいままでも、これからも瀬戸内海を渡る船を見守り、正しい道へ導いていく。人生を航路に
――いま、満足ですか。
秋の陽を見つめる晶は、さきほど自分を囲んだ人垣の誰かが叫んだ言葉を思い出した。
自分の企みは暴かれ、久保は無罪になった。だが、久保は今回のことで仕事も家庭も社会的信用も失った。久保からすべてを奪うという目的は果たせた。しかし、気持ちは晴れない。胸のなかに、真っ黒い泥のようなものが沈んでいる。
三人のあいだに沈黙が広がったとき、遠くから女性の声がした。
「先生」
佐方と一緒にいた女性だ。こちらに向かって駆けてくる。女性は佐方のところまでやってくると、立ち止まった。
「小坂、どうだ」
佐方が訊ねる。女性の名前は小坂らしい。
小坂は呼吸を整えながら、佐方に言う。
「はい、いらしてます。正面玄関の前で待ってもらっています」
(つづく)
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