【第287回(最終回)】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』、ついに最終回!
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第287回(最終回)】柚月裕子『誓いの証言』
蒼汰は晶の隣に立ち、囁くように言う。
「僕、いままで安藤晶のことしか知らなかった。これからは、原晶のことも知りたいと思っている」
それって――
晶は恐る恐る顔をあげた。蒼汰と目が合う。
蒼汰はいまにも泣きそうな顔で
「教えてくれるかな」
晶は込み上げてくるものを、堪えることができなかった。思わず両手で顔を覆い、下を向く。その肩に、蒼汰が手を置く。
人が動く気配がして顔をあげると、小坂と佐方が立ち去るところだった。大橋もふたりのあとについていく。
「あの――」
呼びかけると、大橋が振り返った。携帯を持った手を上にあげて、大きく振る。
「あとで連絡するから。今日はゆっくり休め。蒼汰くん、アキちゃんのこと頼むよ」
晶の隣で、蒼汰が大橋に向かって頭を下げる。
三人になにか言いたいけれど、なにを言っていいのかわからない。ただ立ち尽くし、見送る。
三人の姿が見えなくなると、蒼汰が晶に訊ねた。
「これからどうする。お腹、空いてない? なにか食べようか」
晶は、うん、答えた。
少し冷たさを含んだ心地よい風が、顔を撫でた。黄色く色づいた銀杏の葉が、あたりに舞う。
蒼汰に支えられながら歩き出した晶は、久保にいつ謝罪に行くか、考えていた。
(了)
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