【第282回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
 
  
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第282回】柚月裕子『誓いの証言』
 晶は信じられなかった。自分を怖い顔で叱っていた勝也が――原じいから蕃永石を奪った勝也がそんなことを思っていたなんて――。
 頭が混乱している晶は、ふと手に手紙を握りしめていることに気づいた。改めて、便箋を開いて中身を読む。
『申し訳ありません』
 歪んだ字を見ているうちに、ベッドに身を起こしている勝也の姿が脳裏に浮かんだ。震える手に筆ペンを持ち、便せんに一生懸命に字を書いている。
 便箋をじっと見つめる晶に、大橋が言う。
「今回のアキちゃんのことを伝えると、若社長は涙を流してね。ろれつが回らなくてしゃべりづらいのに、何度も何度も謝るんだ。申し訳ない、申し訳ないって」
 晶は便箋を再び手で握った。
 本当だろうか。本当に勝也は苦しんでいたのだろうか。自分だけが辛いと思っていたとき、勝也も人知れず苦しんでいたのだろうか。
 大橋がぽつりと言う。
「文ちゃんが起こした事故の慰謝料、若社長が払うって言ってるんだ」
 晶のなかに、強い怒りがこみ上げた。心のままに叫ぶ。
「いらない! おじいちゃんを殺した相手から、情けは受けない!」
 大橋は言い返す。
「アキちゃんのためじゃない。事故で怪我をされた方とご家族のためだ」
 晶は返す言葉に詰まった。いまさらなにを言われても、勝也が原じいを苦しめたことは確かだ。そんな相手から施しを受ける気にはなれない。だが、事故で怪我をした人と家族に、いまの自分が慰謝料を払いきれるかわからない。
「大さん、私、どうしたらいいの」
(つづく)
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