【第281回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
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【第281回】柚月裕子『誓いの証言』
「若社長は、自分の代で丁場から死人を出してしまったことをとても悔やんでいた。そして、原じいが死んだのは自分のせいだ、と自分を責めてもいた。
そう言って大橋は、晶を見つめた。
「でも、ここで自分が私情を挟んで原じいの死に心が引きずられてしまったら、原じいを丁場から遠ざけた意味がなくなってしまう。自分はなにがあっても、蕃永石を未来へ残さなければいけない。その思いは原じいも同じだ。きっと、自分の仕打ちの真意をわかってくれる、そう言っていた」
大橋は一歩前に出て、晶との距離を詰めた。
「本当は、若社長が一番、原じいの葬儀に参列したかったんだよ」
「嘘!」
晶が叫ぶ。
「嘘じゃない!」
大橋が怒鳴り返す。強い訴えに、晶は
「俺さ、原じいが亡くなってから、四十九日や百か日とか、節目のときにお墓に拝みに行っていたんだ。原じいが好きだった、ばあちゃんが作ったはげ団子を持ってさ。すると、いつも新しい仏花が供えられてるんだ。若社長から止められている組合員が、来るはずはない。近場に、頻繁に拝みに来られる身内はいない。いったい誰だろうって思っていたら、ちょうど七回忌のあたりかな。若社長がお墓に手を合わせているところに出くわしたんだ」
もしかしてずっと墓に花を供えていたのは若社長だったのか、そう大橋は訊ねた。勝也はバツが悪そうな顔をして、自分が原じいの墓を拝みに来ていることは誰にも言わないでくれ、と頼んだという。
その理由を大橋は訊ねたが、勝也はなかなか言わない。しかし、粘る大橋に根負けし、ぽつぽつと語りだしたという。
「若社長はさ、原じいの葬儀に出るなって組合員をとめただろう。そんな自分は原じいを拝める立場じゃないって。でも、やっぱり原じいに詫びたい気持ちがある。だから、節目のときにひっそり墓参りに来ているって言ってさ」
(つづく)
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