【第280回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第280回】柚月裕子『誓いの証言』
大橋は顔をあげて、晶を見た。
「アキちゃんは、若社長を憎んでいるだろう。俺もそうだった。蕃永石の将来についても、原じいを組合から追い出す画策も、若社長が強引に自分の意見を通す形になった。自分勝手な若社長に怒りを覚えたし、それに逆らうことができずに言いなりになるしかない自分が情けなかった。でもな、時間が経つと、最初は見えなかったものが見えてきたんだ」
それはなにか、と目で問う。大橋はつぶやくように言う。
「若社長も、苦しんでいたんだって」
晶はかっとなった。
「なにそれ。自分が好きなようにやりたい放題やって、おじいちゃんをひどい目に遭わせて、おじいちゃんのお葬式にも来ないで、それで苦しんでたって、そんなことあるわけないじゃない!」
「違うんだ、アキちゃん。違うんだ」
大橋が必死に言い返してくる。
「若社長は、原じいのお墓にずっと手を合わせに行っていたんだよ」
晶は耳を疑った。
「それって、どういうこと?」
大橋は説明する。
「原じいが死んだとき、たしかに若社長は丁場の組合員たちを葬儀に参列させなかった。でもあれは、若社長にもそうせざるを得ない理由があったんだ」
自分の父親が早くに亡くなり、若くして跡を継がなければならなくなった勝也のプレッシャーはかなりのものだった。長く続いてきた歴史ある丁場を守り、次世代へ引き継ぐことが自分の役割だと、事あるごとに口にしていたという。
(つづく)
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