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特集

【座談会】山本飯のみなさんと『月花美人』についてたくさんしゃべる会

昨年夏に刊行された『月花美人』、著者・滝沢志郎さんのSNS投稿がバズったり、時代小説でありながらananで取り上げられたり、次々と文学賞にノミネートされたりと、1年以上経っても話題と勢いが衰えないこの小説を、さらにさらに広めたい担当が、書店員ユニット「山本飯」の皆さんをお呼びして語り倒した90分。読めばあなたも仲間に入りたくなること間違いなしです!

(司会・構成・カドブン編集部)

山本飯のみなさんと『月花美人』についてたくさんしゃべる会

『月花美人』あらすじ

菜澄藩の郷士・望月鞘音は、姪の若葉との生活を少しでも楽にしようと、傷の治療に使う〈サヤネ紙〉を作っていたが、幼馴染の紙問屋・我孫子屋壮介から改良を頼まれる。町の女医者・佐倉虎峰の依頼らしいが、目的を明かさないので訝しく思うと、それは「月役(月経)」の処置に使うためであった。自分の仕事を穢らわしい用途に使われた、武士の名を貶められた、と激怒する鞘音だったが、時を同じくして初潮を迎えた若葉が「穢れ」だと村の子供にいじめられたことを知る。女性の苦境を目の当たりにした鞘音は迷いつつ、壮介や虎峰と協力し、「シモで口に糊する」と誹られながらも改良した完成品〈月花美人〉を売り出そうとするが――。

『月花美人』詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000919/

生理用品の話……だけじゃなくて、ドエンタメなんです!


――ではまず、担当よりご挨拶を。

鈴木:KADOKAWAの『月花美人』編集、鈴木です。本日は皆さんお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。『月花美人』は、昨年7月に刊行したときから、これはいけるとずーっと思い続けてきた作品でした。1年ちょっと経っても、ありがたいことにまだまだ本が動いているので、こちらもさらに後押しをと思い、座談会を企画させていただきました。よろしくお願いいたします!

山本飯(山中 本間 飯田):よろしくお願いいたします!


――山本飯のみなさんは、書店員として活躍しつつユニットとして活動され、ZINE「山本飯公式ファンブック」で文学フリマの人気サークルでもあります。お三方それぞれが個人賞も主催されています。『月花美人』は第7回のほんま大賞受賞作ですね。

鈴木:ほんま大賞をいただけたのは僕本当に嬉しくて、朝起きてメールを拝見して「やったー!」と叫んでしまって。あらためて、本当にありがとうございました!

飯田:おお!!

本間:……。(微笑んでいる)

鈴木:滝沢さんと小説がひとつ報われたという風に思っておりました。で、おかげ様でまだまだ話題にしていただけて。

本間:そう! ビックリしましたananに載ってて(2448号に、元乃木坂46の中元日芽香さんとの対談)。

鈴木:そんなわけで、この作品やテーマはもっと広がっていけるテーマだと思っているし、何より僕自身がもっとこの小説について語りたいし、みなさんのお話を伺いたくて。


――本間さんは、何がきっかけで『月花美人』を手に取られましたか。

本間:きっかけは、例の、バズった滝沢志郎さんのポストですね。この作品を書くために、生理用品を装着されたことを書かれたもの。こういうテーマの作品を男性作家さんが、しかもその時代小説っていう形で世に出すんだっていうことにまず感銘を受け、これは絶対に読まなければいけないと。私が日頃考えてることともすごく一致してる気がして。で、読んでみたら、もう本当にその通りの作品だったし、それでいて訴えたいテーマに引っ張られすぎることなく、物語としてしっかり面白い。

鈴木:そうなんですよね。

本間:最初は月経に対しての穢れとか差別みたいなところから入ったけど、中心となる3人の友情の物語であったりとか、女性と男性の連帯の物語であったりとか、主人公の鞘音と、養女になった若葉ちゃんの親子愛の物語であったりとか。

飯田:若葉ちゃんいいキャラですよね。

本間:いろんな切り口から楽しめる。そして要所要所で笑わせたり、泣かせたりがあって――もう、エンタメなんですよね。こういうテーマだから読んでほしいだけじゃなくて、最高に面白いから、本当に広く読まれてほしい作品だと思ったので、ほんま大賞に選ばせていただいたんです。


――ありがとうございます。山中さんはいかがですか?

山中:私もエンタメ的にめちゃ面白いと思ってるのですが、いろいろ考えさせられたりもして……最初のほうで鞘音が、いまで言う生理用品に「サヤネ紙」って自分の名前をつけられたことにすごく反発するじゃないですか。

本間:うんうん。

山中:最初はえっそこまでのことなのかなって思って、でも読んでいくうちに、当時の武士にとって「恥」がどれだけ大きな問題なのかとか、そのことに命をかけなくちゃいけないという背景があるっていうのが分かってきて……武士たるものこうであれとか、男子たるものこうであれみたいな呪縛があった。

本間:確かに。ホモソーシャルな呪いを解く物語でもあるってことですよね。

山中:
うん。うん。そう! 生理用品の開発で、女性が穢れた存在として貶められてきた風習を変える、それが大きなテーマだと思うんですけど、同時に男性が、男性性の呪縛みたいなものから、いかに抜け出すかも描かれていますよね。

本間:うん。うん。うん。

山中:なので、鞘音が考え方を変えていくところがすごく印象的でした。 あと、商品開発のパートはビジネス小説みたいなところもあるじゃないですか。そこも面白いですよね。そのうえ活劇あり、対決もありで時代小説の面白さもちゃんとある。なんか全部いい。


――300ページ強なんですけど、エンタメ全部入りなんですよね。

本間:出てくる人たちもすごく印象的ですよね。私あの渡し舟の人がなんか好き。

山中:わかる。

飯田:穢れだー、って鞘音が湖に放り投げられるとき、たぶん加担してる。

本間:ひどいの……でも最後のほうでは「旦那の死体を持って帰るのは俺は嫌だぜ」みたいなことを言うとことか、すごくいい、いいところでいい人が出てくる。


――飯田さんはどういう風に読まれました?

飯田:僕は、同じく生理用品開発を描いた『パッドマン』(パッドマン 5億人の女性を救った男)ってインド映画を先に見てたんですよ。 同じ題材を日本の武家社会でやるとどうなるんだろうと思って読み始めたらすごくよくて。武士の誇りと生理用品がどう折り合うのかの部分はこの小説ならではだし……やっぱり商品開発パートが楽しかったですね。「夜用」に大きいやつを作らなくちゃいけないとか。みんなでわちゃわちゃやりながら試行錯誤をするところとか。僕はふだん、オレンジのペンで線を引きながら本を読むのですが、いま見返すと途中から線が消滅していて、物語に没頭してたんだなあと思います。

お互いわからないからこそ、もっと話せたらいい


――ちょっと踏み込んだことを伺ってもいいですか?

飯田:はい。


――飯田さんは男性で管理職だったりもするじゃないですか。一緒に働く女性たちの、月経周りのことって気にされたことありますか?

飯田:作中にもありますが、自分からは言わないじゃないですか。そんなに。

本間:言わないですね。

飯田:言ってくれる人も時々いるんだけど、それに対しては「あっ、ではあまり無理しないでね」って言うくらいで。やっぱ具体的なしんどさはわかんないですよね。

本間:うん。

飯田:だから配慮できてるかって言われるとできてないと思いますね。

鈴木:僕も頭では分かっているというか、女性にそういう期間があって、しんどいことがあって、と知識はあっても、働いている時に、女性の同僚たちのそういう時期に対して思いがはせられているかというと、できてない……。


――実感としてはわからなくて当然だと思います。

山中:生理で一番困るのが洋服とかを汚してしまうんじゃないかという心配で、それでいつも憂鬱になる。作中でも、当てた紙がずれた、みたいなシーンがあって、女性はそうそう、それ!ってなるけど、男性は多分具体的にはイメージできない。

本間:虎峰先生が、血が出てるのは大体1週間ぐらいだけど、その前後に体調不良の期間があって実質20日間ぐらいはつらいということを言って、そんなにか!と男性たちが驚くシーンもあるんですが……なんか、男性の読者が、女のつらさを分かれ的に怒られてるような鬱陶しさを感じるんじゃないかという心配もあったりして。

鈴木:なるほど。

飯田:でも、そういう読み味じゃないんですよ。鞘音が虎峰先生に怒られたりしてるから我々が怒られてる感じにならないっていうか、僕らの身代わりになってくれてる。

鈴木:確かに。

飯田:Xが燃えちゃうのは、みんなすぐ自分が怒られているような気になっちゃって反撃しなければってなるからかもですね。怒られてるわけじゃないのに。

鈴木:滝沢さんが本当に鞘音と同じ気持ちというか、体験レポでも書いておられましたが、知らなかったことにきちんと愕然とし、あらためて知りたいと思うスタンスで書かれているので。怒られてる気持ちじゃなく読めるんじゃないかと思います。

飯田:男の人の考え方を変えようとかそういう話じゃなくて、とにかく目の前の問題をなんとかしたい、じゃあプロダクトを作ろうっていう点でみんなが一致してるから、その前向きさが楽しいですよね。


――材料はわらびか! いや、こんにゃくだ! みたいな試行錯誤とか。

飯田:あそこ、いいですよね!!

本間:わらび餅を出されたのを見て、みんなが、「これだ!」みたいになる。映像化のときはあのシーン、カメラはわらび餅にガッて寄ってほしい(笑)。

鈴木:プロダクトを作るっていうのがいいんですよね。人の役に立つ何かを作るのってたぶんすごく楽しい。


――本間さんも山中さんも手仕事の人(お二人の売り場は技ある美しいディスプレイや、フリーペーパーで有名)ですよね。

山中:はい。鞘音の手先が器用で、手を動かしながら試行錯誤しているところ、すごく共感できるし、読んでて楽しいですよね。

本間:そう。あんなに「生理用品に自分の名前を使われるなんて武士の誇りが」って怒っていた鞘音が、実際使っていた女性たちから、こういう声がありましたよって聞いたら、「何!? それは何としてでも俺が直さなきゃ」みたいになる。もちろん若葉のこととかも踏まえてのゆっくりとした変化なんですけど、いいですよね。

山中:鞘音はなんか心意気が町工場の人なんですよね。『下町ロケット』みたいな――。
話は変わるんですが、テレビ番組で、『上田と女が吠える夜』ってあるじゃないですか。私、あれが結構好きで。いろんな悩みを、それこそ生理についても、女性のコメンテーターたちが赤裸々に言うんですけど。そういう女性の方が、今本当にたくさんいるので、すごく心強いなと思います。

本間:うん。

山中:そういうのを、なんかこう、家族で、男女で、パートナー同士で、語れるといいなって思いますね。

飯田:あ、そうだよね。言わない方がいいんじゃないの?みたいな空気も、それはそれで良くないということですよね。

本間:難しいですね。この『月花美人』でも一朝一夕に解決する問題ではないって書かれていて。女性の側からも表沙汰にしてくれるなって意見もあるじゃないですか。諸手を挙げて賛成、みんながみんな同じ方向を向いてこうしましょうっていうのは無理っていうのも描かれてるのがいいなって。

鈴木:そういうことも、話していかないとお互いわからないですよね。

本間:そう。この話で1番の肝はそこなんですよ。わからないから、話していこうよって。

男も女も大人も子供も、みんなが生きたいように生きるための物語

鈴木:僕が印象に残っているのが、多分割と年配の男性の方の感想で、面白かったと書いてくださってたんですけど。冒頭に「男性の私にとってはすごくハードルの高いテーマでありましたが」ってあって。その方が感じた「ハードル」って何だろうとしばらく考えてました。

本間:ハードルって、乗り越えなければならないものですよね。

鈴木:そうなんです。人によっては、「えい!」って乗り越える気持ちが必要なテーマなんだっていうのを実感しました。でも、そういう「ハードル」を感じている方にこそ読んでいただきたい本なんです。絶対面白いので!

本間:私、この小説の副読本としてずっと隣に『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)を置いているわけですけれども。

鈴木:ありがとうございます!

本間:こっちは本当にハードルが高い本なんだと思うんですよ。特に男性が手に取る、読むっていうことに対して。でも『月花美人』だったら、ハードルが見えづらいように書いてくださっているから、ここから一歩を踏み出してもらうのにふさわしい。

鈴木:そうですね、滝沢さんがこの作品で書きたかったことの1つは、いわゆる男らしさからの解放だと仰ってました。女性たちの物語でもあるんですけれど、同時に、男性も(当時そんな概念はないかもしれないんですけど)自分らしく生きるというか、みんなが生きたいように生きるための物語でもあると思います。

飯田:男の人に読んでもらいたい気はしますね。鞘音みたいな人に読んでもらいたい。

本間:物語が始まるときのゴリゴリだった鞘音。

山中:それこそ『下町ロケット』はじめ、池井戸潤さんの小説がお好きな方は、すごく面白いと思います。ポップに書いちゃおうかな。

鈴木:日本の生理用品ってクオリティが高いということはよく聞きます。そして、めちゃくちゃコマーシャルを見ますけど、あれだけの頻度で新商品が出ているっていうことは……。

山中:多分企業がすごく頑張ったってことじゃないですか。男性たちも頑張ったってことだと思うんですよね、実際『月花美人』のようなことがつい最近の日本で起きていたのかもしれない。そういう意味でも、わりと身近なお話なんです。

本間:時代小説だからとか、生理用品を作る話だからとか、そういう理由でノットフォーミーと思っている人にこそ読んでもらいたい。絶対に読んで損はさせない、むしろあなたのこれからの人生に、プラスにしかならないお話なので! って思ってのほんま大賞でした。

鈴木:ありがとうございます。我々もまだまだ頑張って、この本を推し続けたいと思います。


――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。カドブンも引き続き『月花美人』を推してゆきますので、書店のみなさまも、何か面白い本ないかなーと思いながらこの記事を読んでいらっしゃるあなたも、どうぞよろしくお願いいたします!

作品紹介



書 名:月花美人
著 者:滝沢 志郎
発売日:2024年07月26日

江戸時代、侍が生理用品開発に立ち上がる――!?
【Xで著者のポストが話題沸騰!書評も続々、いま最旬の時代エンタメ小説!】

菜澄藩の郷士・望月鞘音は、姪の若葉との生活を少しでも楽にしようと、傷の治療に使う〈サヤネ紙〉を作っていたが、幼馴染の紙問屋・我孫子屋壮介から改良を頼まれる。町の女医者・佐倉虎峰の依頼だというが、目的を明かさないので訝しく思うと、それは「月役(月経)」の処置に使うためであった。自分の仕事を穢らわしい用途に使われた、武士の名を貶められた、と激怒する鞘音だったが、時を同じくして初潮を迎えた若葉が「穢れ」だと村の子供にいじめられたことを知る。女性の苦境を目の当たりにした鞘音は迷いつつ、壮介や虎峰と協力し、「シモで口に糊する」と誹られながらも改良した完成品〈月花美人〉を売り出そうとするが――。己に恥じない生き方を問う、感動の医療時代小説!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000919/
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