【第278回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第278回】柚月裕子『誓いの証言』
晶は佐方を見た。
「あとは、弁護士さんが調べたとおり。私がこんなに苦しい目に遭っているのに、そのきっかけをつくったやつはのうのうと生きている。酒を飲み、高笑いして、あまつさえ私を口説いてきた。憎かった。おじいちゃんと私、文ちゃんをこんな目に遭わせたやつを許せなかった。復讐ができるならどうなってもいい、そう思った」
黙って話を聞いていた大橋が、大きな声で晶を叱った。
「だめだ!」
晶は驚いて大橋を見た。
大橋は怖い顔で、晶に詰め寄る。
「そんなこと、だめだ。それじゃあ、児玉勝也と同じだ」
大橋の口から出た名前に、ある男の顔が頭のなかに蘇った。いつも厳しい顔で、何かに対して怒りを
大橋は真剣な顔で言う。
「目的を果たすことができるならば、手段など
晶は身体の横に下ろしていた手を、握りしめた。児玉勝也のことを忘れたことは、一度もない。許されるならば、久保だけでなく勝也にも復讐してやりたいと思っていた。
表情から、勝也への恨みの欠片を、晶がまだ胸の中に抱いていることを感じ取ったのだろう。大橋は厳しい表情のまま、上着の内ポケットから一通の封筒を出した。
黙って、晶に差し出す。宛名は書かれていない。受け取って、裏返した。差出人の名前もない。いったいなんだろうか。
(つづく)
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