KADOKAWA Group
menu
menu

連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.118

【第278回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第278回】柚月裕子『誓いの証言』

 晶は佐方を見た。
「あとは、弁護士さんが調べたとおり。私がこんなに苦しい目に遭っているのに、そのきっかけをつくったやつはのうのうと生きている。酒を飲み、高笑いして、あまつさえ私を口説いてきた。憎かった。おじいちゃんと私、文ちゃんをこんな目に遭わせたやつを許せなかった。復讐ができるならどうなってもいい、そう思った」
 黙って話を聞いていた大橋が、大きな声で晶を叱った。
「だめだ!」
 晶は驚いて大橋を見た。
 大橋は怖い顔で、晶に詰め寄る。
「そんなこと、だめだ。それじゃあ、児玉勝也と同じだ」
 大橋の口から出た名前に、ある男の顔が頭のなかに蘇った。いつも厳しい顔で、何かに対して怒りをほとばしらせていた。児玉興業グループの代表取締役、おじいちゃんを死に追いやった張本人だ。
 大橋は真剣な顔で言う。
「目的を果たすことができるならば、手段などえらばない。誰がどうなってもいい。そんな風に考えたら、アキちゃんは若社長と同じ人間になってしまう。そんなこと、原じいが喜ぶと思うか?」
 晶は身体の横に下ろしていた手を、握りしめた。児玉勝也のことを忘れたことは、一度もない。許されるならば、久保だけでなく勝也にも復讐してやりたいと思っていた。
 表情から、勝也への恨みの欠片を、晶がまだ胸の中に抱いていることを感じ取ったのだろう。大橋は厳しい表情のまま、上着の内ポケットから一通の封筒を出した。
 黙って、晶に差し出す。宛名は書かれていない。受け取って、裏返した。差出人の名前もない。いったいなんだろうか。

(つづく)

連載一覧ページはこちら

連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年9月号

8月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年10月号

9月5日 発売

怪と幽

最新号
Vol.020

8月28日 発売

ランキング

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP