【第277回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第277回】柚月裕子『誓いの証言』
「私――蒼汰に銀座で働いている理由が言えなかった」
「どうして」
大橋が怒ったように言う。
「アキちゃんには、そうしなければいけない理由があったんじゃないか。興味半分とか、遊ぶ金が欲しくて働いていたんじゃない。やましいことがないんだから、はっきり伝えればよかっただろう」
晶は大橋を見つめ、ぽつりと言う。
「蒼汰の地元、香川なんだ」
大橋がはっとしたように口を
晶は言葉を続けた。
「文ちゃんが私を引き取るときに、原から安藤に名前を変えた理由知ってるでしょう。おじいちゃんがどんな形で死んだか、地元の人なら知ってる。その原の家の者だって蒼汰が知ったら一緒になれないって思った。蒼汰がそんなの関係ないって言ったとしても、家の人が許さない。だから、私が原の家の者で、おじいちゃんが残した借金を返すために働いてるって、どうしても言えなかった。蒼汰は私が嘘をついて銀座で働いていたことが許せないって――嘘をついて結婚しようとしていた人と一緒にはなれないって。それで別れた」
晶は手の甲で涙をぬぐった。
「やっと幸せになれるって思ったのに、それがだめになった。やっと借金を返し終えたのに、今度は多額の慰謝料を背負うことになった。もう、どうしていいかわからなかった。生きることに疲れていた。そんなときに、久保が現れた」
(つづく)
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