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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.114

【第274回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第274回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方は晶の目の前に立ち、優し気な声で言う。
「お伝えしたいことがあります。少しだけ、お付き合いいただけませんか」
 佐方の目は穏やかだった。敵意の欠片かけらもない。
 晶はうなずいた。
 佐方は、女性が報道関係者を押しとどめているあいだに、晶を連れて正面玄関を離れる。あとをついていくと、裁判所の敷地内にある中庭に出た。林立している銀杏の大木が、黄色い葉をつけている。
 銀杏の樹の下にベンチがあり、そこにひとりの男性が座っていた。大橋だった。晶を見つけると、ベンチから立ち上がった。
 佐方と一緒にベンチへ近づく。大橋は自分のところへやってくる晶を、ずっと見つめている。
 晶がそばにくると、大橋は声をかけた。
「アキちゃん――」
 晶はなにも言わず、うつむいた。なにも言えなかった。なにを言っていいのか、わからなかった。
 大橋が震える声で言う。
「アキちゃん、ごめんな」
 晶は顔をあげた。どうして大橋が謝るのか。
 大橋はどこかが痛むように、大きく顔を歪めた。
「アキちゃんに、こんな辛い思いをさせたのは俺だ。ずっと、アキちゃんに謝りたかった。俺は自分の家族を守るために、原じいを――アキちゃんを見捨てた」
 大橋はその場に膝をつき、晶に向かって土下座した。
「アキちゃん、俺を責めてくれ。俺をなじってくれ。お前のせいで、おじいちゃんが死んだ。お前のせいで、自分の人生もめちゃくちゃになったって、俺を気が済むまで、殴って蹴って、好きなようにしてくれ」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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