KADOKAWA Group
menu
menu

連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.113

【第273回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第273回】柚月裕子『誓いの証言』

 人垣はなくならない。むしろ、この場を立ち去ろうとする晶に対して、さらに距離を詰めてくる。人垣の後ろのほうから、報道関係者同士の言い争う声が聞こえてきた。
「どけよ、聞こえねえよ」
「押すなよ。なにすんだよ」
 人垣の外側にいる者が、少しでも晶に近づこうと躍起になっているらしい。
 このままでは、いつまで経ってもこの場から離れられない。そう思った晶は、強引に前へ出ようとした。そうはさせじと、体格のいい男がいきなり目の前に立ちはだかった。男を避けようとした弾みで、晶がよろめく。その拍子に、となりにいた記者らしき女性に、肩がぶつかった。
「痛い!」
 女性が声をあげる。
「すみません」
 晶が謝っても、女性が許す気配はない。
「いまの、わざとですか? 訴えが退けられたから、私たちに八つ当たりですか?」
 めずらしい無罪判決が出て気がたかぶっているのか。それとも、わざと荒っぽい言葉を吐き、晶からなにかしらの言葉を引き出そうとしているのか。
 女性記者の感情的な声で、晶のまわりにいる者たちの熱気がさらに増す。
 晶は必死に懇願する。
「お願いです、通してください。お願いします」
 晶が必死に訴えていると、晶の目の前の人垣が左右に割れた。後ろのほうから、男性が晶のほうへ歩いてくる。
 佐方貞人――久保の弁護人だった。その後ろに、公判のとき佐方の隣に座っていた女性もいる。女性は晶を取り囲んでいる者たちに向かって、声を張り上げていた。
「安藤晶さんに話があるんです。みなさん、離れてください。ほら、そこの人、聞こえませんでしたか、離れて!」
 女性の剣幕にされてか、さきほどまで原告と争っていた弁護人の登場にうろたえたのか。報道関係者たちの昂奮が、一気に鎮まる。

(つづく)

連載一覧ページはこちら

連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2025年9月号

8月25日 発売

ダ・ヴィンチ

最新号
2025年9月号

8月6日 発売

怪と幽

最新号
Vol.020

8月28日 発売

ランキング

アクセスランキング

新着コンテンツ

TOP