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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.108

【第268回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第268回】柚月裕子『誓いの証言』

 佐方はそこで声を張った。
「かつて、原告の祖父を蕃永石の組合から外す画策をした関係者のひとりが、被告人であることを突き止めたんです」
 晶は佐方の言葉が聞こえていないかのように、ぴくりとも動かない。俯いたままじっとしている。
 佐方は晶から視線を外し、いま一度、法廷内を見やった。
「あとは、さきほどこの場で話したとおりです。原告は祖父の恨みを晴らすために、自らの身体を犠牲にして復讐をしようとしたんです。よって」
 佐方は乙部に向かって言う。
「被告人の、無罪を主張します」
 佐方の声が、法廷に響く。誰も声をあげるものはいない。法廷のなかは張り詰めた空気に満ちている。
 佐方が椅子に座ると、乙部が久保を見た。
「被告人は、証言台に出てください」
 久保に与えられる、意見を述べる機会――被告人の最終陳述だ。
 久保がゆっくり立ち上がり、証言台に立つ。乙部は久保に向かって静かに述べた。
「これで審理を終わりますが、最後に言っておきたいことはありますか」
 久保は直立の姿勢のまま、わずかに俯いた。小さいがしっかりとした声で話しはじめる。
「私はいま、後悔しています。今回のことは、すべて私の弱さが招いたことです。まずは傷つけた妻に、そして辛い人生を歩むことになってしまった晶さんに心からお詫びします」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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