【第254回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第254回】柚月裕子『誓いの証言』
佐方は証言台の前で、背筋を伸ばした。どこを見るでもなく話しはじめる。
「先ほどの大橋さんの証人尋問で、原告の生い立ち、育ててくれた祖父が亡くなった理由、そして被告人と原告の関係性はおわかりいただけたと思います。いまから私がお話しするのは、原告が祖父を失ったあとのことです。原告になにがあり、どのように生きてきたのか、それをお聞きいただきたい」
佐方は床に目を落とし、証言台の前をゆっくりと歩きはじめた。左右を往来する。
「私は原告の故郷である香川の蕃永町を訪れて、原告を子供のころから知る人物――大橋さんに会いました。そこで原告の祖父が亡くなった経緯を伺い、そのあと、ひとりになった幼い原告を養子として引き取った安藤文子さん、原告の父親の姉であり原告の伯母にあたる人物と連絡を取ろうとしました。しかし、連絡がつかない。そこで直接、安藤文子さんの家を訪ねることにしたんです」
文子の家は、小坂が取り寄せた戸籍で調べた。香川と高知の県境にある蓮倉市というところだった。蕃永町と同じくらいの小さな町だ。
「安藤さんの家はすぐに見つかりました。でも、インターホンを押しても誰も出てこない。そこで近所の方に安藤さんについて尋ねたところ、いま病院に入院しているとわかりました」
佐方と小坂、大橋はすぐにその病院へ駆けつけた。佐方たちは総合受付で身元を明かし、文子との面会を求めたが、それは受け入れてもらえなかった。対応した事務員は、病院の規則で身内以外に患者の情報を伝えることはできないし、まして面会はさせられない、と言う。
佐方は、文子が入院する際に保証人になっている人物に連絡を取ってほしい、と頼んだ。自分は弁護士である事件について調べているが、文子からどうしても話が聞きたい、そう伝えてほしいと言い、自分の連絡先を事務員に託した。
(つづく)
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