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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.92

【第252回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第252回】柚月裕子『誓いの証言』

 ざわつきを抑えるように、乙部は傍聴席の喧騒より大きな声で訊く。
「詳しく説明してください」
 佐方は言う。
「証人の安藤文子さんは、いまから三か月ほど前に自転車事故を起こし、病院に搬送されました。そのときから今日まで、意識が戻っていません。意識があればここに来ていたでしょう。いえ、自転車事故がなければ、今回の事件は起こらなかったでしょう」
「異議あり」
 岩谷が乙部に向かって手をあげる。
「いまから三か月ほど前ということは、弁護人は公判前整理手続のとき、証人がこの場に来られないことがわかっていた。にもかかわらず、証人として呼ぶことを開示していた。これは裁判の進行を意図的に妨げることであり、弁護人としてあるまじき行為です。安藤文子さんの証人尋問は認めません」
「違います」
 佐方が即座に否定する。岩谷から乙部に顔の向きを変えて訴える。
「証人の主治医から話を聞きましたが、患者がいつ目覚めるかはわからない、と言われました。それは今日かもしれないし、一年後かもしれない。いや、一生目覚めないかもしれない。それは、今日目覚めている可能性もあったということです。私は今日まで――いや、いまのいままで、証人が目覚めるのを待っていました。しかし、結果的に間に合わず、この場に来ることができなかったんです」
「裁判長、こじつけです!」
 いままでの経験で、安藤文子に関することが、この裁判の判決に大きく影響するとわかっているのだろう。岩谷はものすごい形相で、乙部に訴える。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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