【第251回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第251回】柚月裕子『誓いの証言』
小坂が大橋を連れて法廷から出ていくと、乙部が佐方に言う。
「引き続き、弁護人は立証をしてください」
佐方は証言台の前で、乙部に向かって言う。
「証人として、安藤文子さんをお願いします」
佐方は裁判の前に行われる公判前整理手続で、大橋のほかにもうひとり――晶を養子にした伯母の文子を召喚する旨を開示していた。
乙部が岩谷に訊ねる。
「検察官、いかがですか」
「然るべく」
岩谷が答える。
乙部は佐方に顔を向けた。
「では、安藤文子さんを証人として採用します。証人を証言台へ」
ちょうどそのとき、大橋を連れて出て行った小坂が戻ってきた。法廷内の視線が小坂に集中する。小坂が二人目の証人を連れてきたと思っているのだ。
しかし、小坂はひとりだった。落ち着いた様子で、静かに自分の席に座る。そのあと、誰も法廷にやってくる気配はない。
乙部が佐方に訊ねた。
「どうかしましたか。証人は来ないのですか」
佐方が首を横に振る。
「証人は来ないのではありません。来ることができないのです」
乙部が眉根を寄せた。
「どういうことですか」
佐方が答える。
「証人は、いま病院にいるからです。病院のベッドで、ずっと眠り続けています」
法廷内がざわつく。
(つづく)
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