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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.90

【第250回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第250回】柚月裕子『誓いの証言』

 法廷における弁護人の役割は、被告人に有利な情報を主張し、被告人の正当な権利と利益を守ることだ。それなのにいまの佐方は、被告人を擁護するどころか、原告が被告人を貶めるはずがないことを強調するような発言をしている。
 岩谷が目で、いったいなにを考えている、と佐方に訴えてくる。佐方はその視線を無視して、大橋に再度訊ねた。
「あなたはいまでも、原告が人の道に反するようなことをするはずがない、そう思っているんですよね」
 返答をためらうように大橋は黙っていたが、やがて意を決したように俯いていた顔をあげて答えた。
「いいえ」
 法廷内の空気が緊迫する。
 大橋は言葉を続ける。
「最初に話を聞いたときは、アキちゃんが人を貶めるはずがない、そう思っていたけれど、いまは違います。アキちゃんは原じいの復讐のために――そして」
 そこで大橋は言葉を区切り、ゆっくりと傍聴席にいる晶を振り返った。そして、晶に語り掛けるように、震える声で言う。
「そして、自分の人生をこんな風にしたなにかへの恨みから被告人を貶めた――いまはそう思っています」
 晶は深く俯いている。顔が見えないため、どのような表情をしているのかわからない。だが、膝のうえに置かれている手が固く握られていることから、胸になにかしらの強い感情が渦巻いていることが見て取れた。
 佐方は乙部に向き直り、告げた。
「大橋さんの尋問を終わります」
 乙部は詰めていた息を吐き出すようにひとつ大きく呼吸をして、大橋に告げた。
「証人は退室してください」
 大橋は見つめていた晶から乙部に視線を移し、深く一礼して証言台から離れた。

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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