【第246回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
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【第246回】柚月裕子『誓いの証言』
乙部が佐方に訊ねる。
「原告と被告人は、かつて原滋さんの関係で会っているのですか」
佐方は答えた。
「そうです。ですが正確を期するならば、被告人は原告のことを、原滋さんの孫であると私が伝えるまで、わかっていませんでした。当然のことながら、原告が勤めていた銀座の店――シャルモンで会ったときもわからなかった。なぜなら、被告人が原告に会ったのはいまから二十年前――司法修習を終えて、高松の弁護士事務所に勤めはじめた頃です。そのとき原告は七歳。しかも、会っているのは原さんの家に行ったときのわずかな時間です。大人になった原告がわかるはずもありません」
「被告人は――ということは、原告は被告人のことを、かつて会った弁護士だとわかっていたということですか」
「それは、まだ続いている尋問でお答えします」
佐方はそう答えると、乙部に目で尋問を続けていいか問うた。乙部はここにきて、まだ大橋の尋問が続いていることに気が付いたらしく、この場を取り繕うように軽く咳ばらいをして佐方に言う。
「弁護人は、尋問を続けてください」
佐方は乙部に一礼し、途切れていた尋問を再開する。
「今回の事件で、自分の恩人もしくは師匠ともいえる人の孫が原告であると知ったとき、どのように思いましたか」
佐方に問われた大橋は、躊躇いなく答えた。
「まさか、と思いました。そんな被害に遭ったなんて信じられませんでした」
「その事件の被告人が、かつて原告の祖父を組合から追い出すことに加担した人間だと知ったときは?」
(つづく)
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