【第243回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【第243回】柚月裕子『誓いの証言』
佐方は問う。
「自分の身を守るためとは、どのような意味ですか」
気持ちを落ち着かせるようにひと呼吸の間をおいて、大橋は答える。
「児玉の若社長です」
大橋は丁場を仕切っている児玉興業グループの説明をする。その内容を、佐方が端的にまとめた。
「蕃永石の採掘事業だけでなく、運送業や観光業、文化推進事業など地域の発展に大きく関与している児玉興業グループは、地元の香川県では大きな影響力を持っている、ということですね」
「はい」
大橋が短く答える。
「さきほどおっしゃった若社長とは?」
「児玉勝也さんです。会社を立ち上げた先代――児玉謙吾さんの長男で、先代が亡くなったあとに会社を引き継ぎました」
大橋は勝也について語る。
若くして急に会社を継ぐことになったこと、勝也はそのプレッシャーからか強引ともいえる方法で会社をさらに大きくしようとしていたこと。その最たるものが蕃永石事業で、この素晴らしい石を国内だけでなく海外にも広めようとしていたこと、その事業拡大のために一部の職人たちと意見が割れ、組合のなかで
「意見が割れた職人のなかに、原さんがいたんですね」
大橋は頷き、原じいが丁場を離れた経緯を伝えた。佐方がその話をまとめる。
「蕃永石の将来を考えて、原さんは自分から丁場を離れたんですね。でも、石を卸してもらうために組合には残った――」
(つづく)
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