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連載

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.82

【第242回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第242回】柚月裕子『誓いの証言』

「そして、それから時間が経ち、こんどは原さんが丁場で亡くなった。それは事故だったんですね」
 そこで大橋の口が止まった。うつむいたまま黙っている。よく見ると、肩が小刻みに震えていた。
 大橋の様子がおかしいことに気づいたらしく、乙部が声をかけた。
「気分が悪いですか。休憩を入れますか」
 大橋は自分に気合を入れるように軽く頭を左右に振り、乙部に向かって言う。
「大丈夫です。続けてください」
 乙部が佐方に、尋問を続けるよう、目で促す。佐方は頷き、質問を繰り返した。
「さきほどの問いですが、原さんが亡くなったのは丁場での事故に間違いないですね」
 今度は大橋はすぐに答えた。
「はい、そうです。でも、私は事故とは言い切れません」
「どういう意味ですか?」
 佐方の問いに、大橋は姿勢を正し、前を向いてきっぱりと言った。
「原じいを死なせたのは、私です」
 思わぬ展開に、再び法廷内がざわつく。大橋は騒ぎにかまわず話を続けた。
「私だけではありません。丁場の関係者の多くが、自分の身を守るために原じいから蕃永石を奪ってしまった。原じいはそのせいで、多額の借金の返済ができなくなり、生きがいもなくしたんです。その辛さから原じいは酒に溺れるようになり、あの日も酒に酔って大雨の丁場へ行き、足を滑らせて死んでしまったんです」
 大橋は声を詰まらせつつも、声を張って言った。
「原じいを死なせたのは、私たちです」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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