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【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』 vol.55

【第215回】柚月裕子『誓いの証言』〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』を毎日連載中!(日曜・祝日除く)
大人気法廷ミステリー「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。

【第215回】柚月裕子『誓いの証言』

 そんなことを考えていると、部屋の前方――法壇の後ろにあるドアが開いて、黒い法服に身を包んだ裁判官が入ってきた。
 中央におと裁判長、その両側――右陪席にまち裁判官、左陪席にぎし岸裁判官が座る。乙部裁判長を背にする形で着座したのは書記官だ。
 十時ちょうどに、乙部が開廷を告げた。
「それでは開廷します。被告人は前に出てください」
 佐方の前の椅子に座っていた久保が、ゆっくりと立ち上がる。服装は白いシャツにグレーのズボンだ。弁護士が被告人から、裁判にはどういう服装がいいですか、と訊ねられたときにお手本として教えるような服装――シンプルで華美ではない恰好だ。おそらく久保も、自分が弁護人を務める被告人から訊かれたことがあるはずだ。まさか自分が被告人として、助言していた服装で出廷するとは思ってもいなかっただろう。
 久保は重い足取りで証言台へ向かった。ちらりと傍聴席のほうへ顔を向け、なにかに気づいたように足を止める。おそらく、たくさんの傍聴人のなかから舞衣を見つけたのだろう。
 傍聴席の後方を見つめたまま動かない久保に、乙部が声をかける。
「被告人、速やかに証言台に立ってください」
 久保は顔の向きを元に戻し、法壇と対峙する形で証言台に立った。
 乙部が、人定質問をする。被告人に関する情報が記載されている証人カードを見ながら、久保の名前、生年月日、本籍、職業、年齢などを読み上げていく。
「以上に、間違いはありませんか」

(つづく)

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連載小説『誓いの証言』は毎日正午に配信予定です(日曜・祝日除く)。更新をお楽しみに!
https://kadobun.jp/serialstory/chikainoshogen/

第1回~第160回は、「カドブン」note出張所でお楽しみいただけます。

第1回はこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/n/n266e1b49af2a
第1回~第160回の連載一覧ページはこちら ⇒ https://note.com/kadobun_note/m/m1694828d5084

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